メールマガジン「Nutrition News」 Vol.117
2012年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
日本人高齢者の栄養と認知機能に関する前向き研究
東京都健康長寿医療センター研究所
2012年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
日本人高齢者の栄養と認知機能に関する前向き研究
東京都健康長寿医療センター研究所
新開 省二 先生
われわれは、地域高齢者を対象とした追跡研究により、栄養状態が良好なことが高齢期の負の健康アウトカム(死亡、ADL障害、虚弱)の発生を抑制することを明らかにしてきました。その際、栄養状態の指標としてBMI、血清アルブミン、総コレステロール、血中ヘモグロビンの4つを用いましたが、いずれも数値が高いことが負の健康アウトカムの発生に防禦的に作用していました。また、4つの栄養指標を用いて総合栄養スコアを算出し、これを三分位に分けて主要死因別死亡との関係を検討したところ、栄養スコアが高い群ほど循環器疾患(特に脳卒中)の死亡リスクが低いでした。したがって、高齢期においてはこうした栄養指標の水準を維持する「食」が重要と考えられます。
本研究は、高齢期の栄養指標と認知機能の低下との関連を探ることを目的とました。認知症と診断される前には、正常老化とは異なる速度で認知機能が低下する期間が平均して6~7年存在することが知られています。この時期の認知機能の低下に関わる食事あるいは栄養関連因子を知ることは、長期的な病理的変化の結果発症する認知症の一次予防に向けた食の指針づくりに重要です。われわれは、これまで地域在宅高齢者を対象とした縦断研究において、認知機能検査を繰り返し測定するとともに、血中栄養指標や認知機能の低下に関わる既知のリスク因子を測定してきました。このデータを用いると、追跡期間中に認知機能に低下がみられた高齢者群と同じく維持した高齢者群との間で、初回調査時の栄養指標の水準を比較するとともに、認知機能の低下に関わる既知のリスク因子の影響を取り除き、認知機能の低下と栄養指標との独立した関連性を調べることが可能です。本研究は、地域高齢者における栄養状態と認知機能低下との関連を、前向き研究により詳細に検討したわが国で初めての研究といえる。
本研究は、高齢期の栄養指標と認知機能の低下との関連を探ることを目的とました。認知症と診断される前には、正常老化とは異なる速度で認知機能が低下する期間が平均して6~7年存在することが知られています。この時期の認知機能の低下に関わる食事あるいは栄養関連因子を知ることは、長期的な病理的変化の結果発症する認知症の一次予防に向けた食の指針づくりに重要です。われわれは、これまで地域在宅高齢者を対象とした縦断研究において、認知機能検査を繰り返し測定するとともに、血中栄養指標や認知機能の低下に関わる既知のリスク因子を測定してきました。このデータを用いると、追跡期間中に認知機能に低下がみられた高齢者群と同じく維持した高齢者群との間で、初回調査時の栄養指標の水準を比較するとともに、認知機能の低下に関わる既知のリスク因子の影響を取り除き、認知機能の低下と栄養指標との独立した関連性を調べることが可能です。本研究は、地域高齢者における栄養状態と認知機能低下との関連を、前向き研究により詳細に検討したわが国で初めての研究といえる。
要旨
認知症の一次予防に向けた食の指針づくりに寄与することを目的として、地域高齢者を対象とした縦断研究により、血中栄養指標と認知機能低下(CD)との関連を調べた。血中栄養指標として赤血球数、アルブミン、総コレステロール、HDLコレステロールを用い、CDは追跡期間中にMMSE得点が3点以上低下した場合と定義した。初回調査時に認知機能が正常(MMSE得点が 25点以上)であった70歳以上高齢者682人を平均2.7年追跡した結果、115人(16.9%)にCDが認められた。単変量解析でCDの有無と有意な関連性を認めた変数、すなわち性、年齢、調査地域、教育年数、家族構成、高脂血症の既往歴、BMI、通常歩行速度、初回調査時のMMSE得点、追跡年数をすべて調整しても、赤血球数、アルブミン、HDLコレステロールが低い群ほどCDのリスクが有意に高かった。それぞれの上位三分位に対する下位三分位のオッズ比は、赤血球数では2.62 (95%CI: 1.44-4.74)、アルブミンでは2.06 (1.14-3.77)、HDLコレステロールでは1.81 (1.02-3.22)であった。高齢期に出現しやすい低栄養はCDの促進要因と考えられ、認知症の一次予防に向けて低栄養対策が重要であると考えられる。