2014/08/12

Vol.115(3) 健康・栄養に関する学術情報 「栄養センシングと細胞機能の制御 肥満・メタボリックシンドローム・糖尿病とのかかわり」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.115
健康・栄養に関する学術情報

栄養センシングと細胞機能の制御 肥満・メタボリックシンドローム・糖尿病とのかかわり
 
 栄養の過不足により、生体の機能は大きく変化します。エネルギーの過不足に関しては、エネルギー過剰でメタボリックシンドロームが引き起こされたり、カロリー制限で寿命が延長したりという現象がみられます。内臓脂肪型肥満が炎症やインスリン抵抗性を通して心血管疾患を引き起こすことは知られており、その分子機構に関する論文はすでに紹介しました。  
 では栄養状態を感知して代謝を調節するメカニズムはどうなっているのでしょう?われわれの身体には栄養センシングという機能があり、栄養素自身が細胞の構成材料やエネルギー源としてだけでなく、細胞内シグナル伝達物質として代謝調節の役割を果たしていることが明らかになってきました。
 今回はその分子メカニズムをメタボリックシンドロームと関連して解説した論文を紹介します。
 
 栄養応答シグナルに関連する経路・分子として知られている主なものにサーチュイン、AMPK (AMP-activated kinase)、mTOR (mammalian target of rapamycin)がある。そのうちカロリー制限・エネルギー不足で活性化するのがサーチュイン、AMPKであり、栄養過剰で活性化するのがmTORC1である。
 哺乳類の持つ7種のサーチュインの中でSIRT1は栄養不足を感知するセンサーの働きをするNAD+依存性脱アセチル化酵素である。その活性化はAMPKの活性化による細胞内NAD+濃度の上昇と関連している。実験動物モデルで、SIRT1の活性化がDNA損傷の修復・抗酸化ストレス・抗炎症などを介し、糖尿病・心血管疾患・神経変性疾患・腎臓病などの老化関連疾患の発症抑制効果をもたらすことが明らかにされている。  
 AMPKは、細胞内のエネルギー不足の状態をAMP/ATP比の上昇として感知し活性化されるリン酸化酵素である。糖・脂質代謝、タンパク質合成、オートファジーなどのさまざまな機能を制御している。AMPKの活性化によるグルコース取り込み促進作用(骨格筋)、糖新生抑制・グリコーゲン合成抑制作用(肝臓)、脂肪酸酸化の促進、ステロール合成抑制などが認められている。  
 mTORは複数のアダプタータンパク質とともに複合体を構成する。2種類の複合体のうちmTORC1はアミノ酸・グルコース・インスリンなどにより活性化を受ける。活性化によるインスリン抵抗性の形成、糖取り込みの低下、糖新生の増加(肝臓)への関与など、糖・脂質・エネルギー代謝、タンパク質合成、オートファジー、細胞成長・増殖などに重要な役割を果たしている。  
 これらは相互に影響(クロストーク)しあい、生体機能の調節を行っている。

 参考

  
 詳細は下記論文をご参照下さい。
 
 北田宗弘,古家大祐

 「栄養センシングと細胞機能の制御  
  肥満・メタボリックシンドローム・糖尿病とのかかわり」
 化学と生物 Vol. 51, No. 5 (2013) 294-301

 
 本論文はJ-STAGEにてオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/51/5/51_294/_pdf

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