2018年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
日本人の自閉症児における腸内細菌叢の状態と行動発達との関係
弘前大学大学院 保健学研究科
小枝 周平 先生
要旨
近年、脳腸相関による腸内細菌とメンタルヘルスとの関連が注目されています。動物実験においては腸内細菌叢の状態がストレスに対する防御機構に影響を与えること、腸内細菌叢の健全化が多動や過活動の低下といった不安行動の軽減に関与することが明らかになりつつあります。
筆者らは、自閉症児の腸内細菌に影響を与えていると予測される食品摂取状況を調査し、加えて、腸内細菌叢の状態を反映するとされる尿中有機酸検査を実施することで、自閉症児と健常児との食事の違いや腸内細菌叢の差異を推定する試みを実施しています。
【内容】
近年、自閉スペクトラム症(ASD)を含む発達障害と腸内細菌叢との関係が注目されている。腸内細菌叢の状態は脳腸相関することで行動に影響を与えると考えられている。本研究ではASDを中心とする発達障害児の腸内細菌の状態に関わる食生活および尿中有機酸について調査した。第一段階として発達障害児の食生活の特徴を調査した。対象は弘前市5歳児発達健診の二次健診を受診した67名(男児45名、女児22名、月齢64.0 ± 2.1か月)である。食生活の調査にはBDHQ3yを使用したほか、発達障害の診断は児童精神科医がDSM⁻5の診断基準に合わせて診断を行った。調査の結果、発達障害児は発達に問題のなかった児と比較し、飽和脂肪酸とショ糖の摂取量が有意に多く、洋菓子や鶏肉、果物の摂取との関連が考えられた。また、ASDの診断を持つ子ども9名(男児6名、女児3名、月齢87.3±2.3ヵ月)に尿中有機酸検査を実施した結果、ASD児の尿中には真菌マーカーであるアラビノース、シュウ酸塩代謝物マーカーであるシュウ酸とグリコール酸、腸内バクテリアマーカーである2-ヒドロキシ馬尿酸が高値で、ビタミンCであるアスコルビン酸が低値のものが多かった。これらは摂取された栄養素およびこれらが腸内細菌叢によって代謝されて産出された物質であり、発達障害児では腸内での真菌やバクテリアが多く存在し、これらの代謝産物のバランスを崩していると考えられた。現在、この結果を受けて定型発達児を含めた弘前市5歳児の食事に関する全件調査を実施中である。