メールマガジン「Nutrition News」 Vol.108
「5つの健康習慣とがんのリスクについて―JPHC研究の成果より-」
「5つの健康習慣とがんのリスクについて―JPHC研究の成果より-」
2013年12月10日、5つの健康習慣(喫煙・飲酒・食事・身体活動・肥満度)の組み合わせから、その人が10年間で全がんを発生する確率を求めた結果が論文発表されました。この結果は2012年3月に公表された「5つの生活習慣とがんのリスク」の応用編として出版されたもので、5つの生活習慣の組み合わせに基づくがん発生のリスクを「相対的な危険度」ではなく「今後10年間でがんを発生する確率」で示した点と、実践している健康習慣だけでなく内容ごとに結果を示している点が特徴です。
なお、この研究は、生活習慣と疾病の発症の関連を明らかにすることを目的として「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(JPHC研究:班主任 津金昌一郎 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部長)」において行われているものです。
5つの健康習慣
がんなど病気の発生に関連する要因を調べる時には、「喫煙と肺がん」というように1つの要因に絞って研究を行うのが主流となっています。しかし、実際の生活は様々な要素が組み合わさって成り立っています。そこで、今回、がんとの関連が重要視されている「喫煙」「飲酒」「食事」「身体活動」「肥満度」の5つの要因の組み合わせによって、個人が10年間でがんを発生する確率を求めました。 今回の研究では、5つの健康習慣を、過去の研究結果から表1のように定義しています。
表1 5つの健康習慣の定義
「多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告」より
実践している健康習慣とその後10年間で発生するがんの確率
実践している健康習慣とその後10年間で発生するがんの確率を表2、表3に示しました。単独の健康習慣を効果の高い順に並べると、男性では「非喫煙」「節酒」「塩蔵品を控える」「活発な身体活動」「適性BMI」、女性では「非喫煙」「活発な身体活動」「適性BMI」と続き、「節酒」「塩蔵品を控える」が下位となりました。
表2 5つの健康習慣(効果が高い順1-5)とその組み合わせと10年間でがんを発生する確率(男性)
「多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告」をもとに作成
表3 5つの健康習慣(効果が高い順1-5)とその組み合わせと10年間でがんを発生する確率(女性)
「多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告」をもとに作成
45歳、55歳では男女差があまりないか、女性の方ががんの発生率が高い傾向にありました。これは、女性には子宮頸がんや乳がんなどの比較的若年で発生するがんが含まれるためと考えられます。また、50歳では男女間に大きな差が見られないのに対して、高齢になると同じ習慣でも女性に比べて男性の方ががんの発生確率が高まる傾向が見られました。特に、60歳以上でいずれの習慣もない場合の男性のがん発生確率は女性の2倍でした。男性においては、いずれも実践しない人のがん発生確率は、5つの習慣すべてを実践する人の2倍となっており、健康習慣の実践の有無が、がんの発生確率の差をもたらすことが示唆されました。
がんは加齢によっても増えるため、同じ習慣でも、年齢とともにがん発生確率が高くなります。無理なく実践できるところから習慣の改善をすることが大切です。
この研究では感染マーカー(ヘリコバクター・ピロリ菌、肝炎ウィルスなど)や糖尿病歴など、がんと関連するその他の要因については考慮されていません。そのため、この確率で絶対にがんが発生することを示すものではありません。身近で答えやすく、かつ重要な項目に絞って計算を行ったものであり、この研究結果を生活習慣改善のきっかけと捉えて欲しいとしています。
なお、5つの健康習慣のうち2、3、4つの習慣の組み合わせについては、図表に示したものが全てではありません。すべての組み合わせの確率については、こちらをご覧ください。
参考
・国立がんセンターによる多目的コホート研究(JPHC Study)HP
http://epi.ncc.go.jp/jphc
・「5つの健康習慣とがんのリスクについて」
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3348.html