2020/04/13

Vol.193 (2) 2018年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告 「生体内環境変化にともなう胆汁酸分子種の可視化」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.193
2018年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
生体内環境変化にともなう胆汁酸分子種の可視化
関西医科大学 解剖学講座   

平原 幸恵 先生

要旨

 近年、胆汁酸の新たな働き、すなわち、細胞表面受容体を介した細胞応答トリガーの働き、核内受容体を介する脂質代謝調節関連遺伝子発現の調節、さらには炎症に関わる免疫系活性化作用などが知られるようになってきた。

 胆汁酸の受容体も脳内での存在が示唆され、著者らは初めてマウス脳内での一次胆汁酸の存在を質量顕微鏡解析によって、関連酵素群の局在を免疫組織化学法によって明らかにしている。脳腸相関の担い手の一つである脳・腸ペプチド同様、脳・腸ステロイドとして、胆汁酸が生体機能の修飾に関わる可能性も示唆されてきつつある。

【内容】

 われわれは、今までの研究で、マウス中大脳動脈永久梗塞(MCAO)モデルの質量顕微鏡網羅的解析において、虚血による梗塞部位に胆汁酸のひとつであるタウロコール酸が多量に存在することを示してきた。脳内において、肝臓由来の胆汁酸の存在や胆汁酸レセプターの存在は既に報告されているが、胆汁酸合成が脳内で行われているかについては明らかでない。本研究では、脳内において胆汁酸が合成されるのか、脳内産生を担う細胞はなにかを明らかにするとともに、生体内の環境の変化が、脳や肝臓での胆汁酸合成にどのような影響を与えるかの検討をおこなった。モデルとしては、MCAO(梗塞)、老齢マウス(高齢化)、高脂肪食食餌マウス(肥満)の3つに焦点をあてた。本報告書においては、①胆汁酸分子種の質量顕微鏡分析機器における適正測定条件の検討、②脳内における胆汁酸合成酵素の発現解析、③MCAOモデルでの脳・肝における胆汁酸分子種の測定結果を中心に記載する。

 肝臓組織において一次胆汁酸タウロコール酸の二段階MS測定に成功した。同位体を含むシグナルピークm/z 513.2, m/z 514.2, m/z 515.2は、正常脳神経細胞周辺(歯状回)においても検出された。また、MCAO梗塞領域においては、シグナルm/z 514.2が特に上昇し、大脳皮質神経細胞における胆汁酸合成酵素群の発現も梗塞時間とともに増加していた。これは脳梗塞急性期の細胞環境、細胞動態の劇的変化に伴い、ニューロンにおいて 胆汁酸の生合成が促進されることを意味しており、胆汁酸が脳内の病態変化の対応に寄与している可能性を示唆している。

 

 

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