2020/01/10

Vol.190 (2) 第21回ダノン健康栄養フォーラムより 「パネルディスカッション – 在宅ケアにどう取り組むか?(前編)」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.190
第21回ダノン健康栄養フォーラムより
パネルディスカッション 在宅ケアにどう取り組むか?(前編) 
関東学院大学 栄養学部 管理栄養学科 教授 / 公益社団法人日本栄養士会 常任理事
 田中 弥生
武庫川女子大学 生活環境学部 食物栄養学科 教授 / 一般社団法人日本在宅栄養管理学会 理事長
 前田 佳予子
医療法人正翔会 ながお在宅クリニック
 熊谷 琴美

司会:神奈川県立保健福祉大学 学長 / 公益社団法人日本栄養士会 会長
 中村 丁次

 

 講演に引き続き、「在宅ケアにどう取り組むか?」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。司会の中村先生、そして現場でご活躍の先生方による、在宅ケアの今とこれからについてのディスカッションに、会場も大変盛り上がりました。

 本フォーラムのアンケートにおいても「勉強になった」「先生方のお話しが心に響いた」「やる気が出た」など多くのご好評の声が寄せられたパネルディスカッションの内容を、2回に分けてお届けします。

中村先生:
在宅ケアの目的として「病院の入院日数短縮のための受け皿」とか「医療費や介護費の抑制」ということがよく言われます。しかし、真の目的はそのようなところにあるのではなく、「在宅で質の高い医療や福祉が受けられる」というところを目標にしていかないと、誤った方向性を示してしまうのではないかと思います。

在宅医療というのは、言葉で言うほど簡単ではありません。管理栄養士・栄養士は、医療や介護の知識や技術を専門性として修得しています。しかし、在宅の現場では、そこに「生活」という問題が入ってきます。多くの管理栄養士・栄養士は、快適に生活してもらうための知識や技術が十分でないために、在宅に行って戸惑ってしまうのです。このような問題を解決するには、現場で実際に働いている人たちの意見を求めるのが一番です。今日は、現場で頑張っていらっしゃる3人の先生方をお招きし、ご自身の経験を踏まえて発表していただきます。その中から、我々が在宅ケアにどう取り組めば良いかについて、ヒントを得たいと思っています。

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関東学院大学 栄養学部 管理栄養学科 教授 / 公益社団法人日本栄養士会 常任理事
 田中 弥生

栄養ケア・ステーションを知っていますか? 

 私からは、主に日本栄養士会の栄養ケア・ステーションの制度についてお話ししたいと思います。栄養ケア・ステーションは、2002年に日本栄養士会によって設置されました。2008年には都道府県栄養士会の栄養ケア・ステーションが立ち上がり、さらに、地域における栄養ケア・ステーションとして20184月に内閣府より認められ、認定栄養ケア・ステーションが立ち上がりました。現在(2019914日時点)では、244の栄養ケア・ステーションが設置されています。

栄養ケア・ステーションの目的は、①管理栄養士・栄養士の活動拠点であること、②地域密着型であること、③栄養ケアを提供する仕組みがあること、④栄養ケアを提供するための拠点であること です。顔の見える管理栄養士・栄養士を増やし、食のプライマリ・ヘルス・ケアの協働するネットワークとしての事業を組織化するのが栄養ケア・ステーションということです。なお、認定栄養ケア・ステーションは、病院・診療所型、介護型、薬局型、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、スポーツ対応、自治体(市町村)など様々な分野で立ち上げられており、都道府県栄養士会がそれらを総括するセンターとして機能しながら、日本栄養士会のバックアップのもとでネットワークづくりを進めています。最近では新聞などのメディアにも多く取り上げられ、栄養ケア・ステーションの取り組みは全国に広まってきています。横浜市青葉区では、青葉区医師会の事業の1つとして栄養ケア・ステーションが立ち上げられています。自分のクリニックでは管理栄養士・栄養士を雇用できなくても、医師会の特典として栄養ケア・ステーションを利用できるならばと、多くの医師が積極的にこの仕組みを活用しており、利用数は年間で4500件にものぼっています。

管理栄養士・栄養士だからできる”力のつけ方”がある

 実際、管理栄養士が介入することにより、“おいしくしっかり食べられる”ようになり、その結果、寝たきりの状態から車いすで生活できるようになる、PEG(胃瘻)から経口摂取に移行できるようになるなど要介護度が改善した事例も報告されています。また、フレイルに陥った慢性腎臓病の患者に対して管理栄養士が日常生活に合わせた訪問栄養食事指導を行ったことにより、血液データや体重、寝たきり度が非常に改善した事例も報告されています。

 在宅で療養している方に対し、管理栄養士・栄養士だからこそできる“力のつけ方”があると思います。例えば、患者が「柿が食べたい」と言ったときに、他職種の方はただ柿をつぶしたものを差し上げていましたが、私たちがMCT(中鎖脂肪酸)を強化した1100kcal以上の柿ゼリーを作ったところ、23個食べていただけたということがありました。
 人は、生まれてから死を迎えるまで栄養を必要としています。私たちは栄養に関する専門職として、その人の生活にしっかり密着しながら突き進んでいかなければならないと思っています。

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武庫川女子大学 生活環境学部 食物栄養学科 教授 / 一般社団法人日本在宅栄養管理学会 理事長
 前田 佳予子

一定のスキルを持って在宅ケアを実践できる管理栄養士の養成

 超高齢社会の栄養の問題として、高齢者の低栄養状態が日常生活活動度の低下や生活の質の低下につながり、健康寿命に大きく影響するだけではなく、疾患の罹患率や死亡率の増加など生命予後の悪化にもつながることが挙げられます。また、健康寿命の延伸や介護予防の観点から、過栄養だけでなく、後期高齢者が陥りやすい低栄養や栄養欠乏の問題の重要性が高まっています。地域包括ケアの鍵となるのは栄養と食事であり、それを担うのが管理栄養士・栄養士です。そこで、日本在宅栄養管理学会、日本栄養士会では、一定レベルのスキルをもって在宅ケアを実践できる管理栄養士を養成するために「在宅訪問管理栄養士」「在宅栄養専門管理栄養士」の共同認定を行っています。

 在宅訪問管理栄養士は、eラーニングによる40時間の自宅学習に加えて研修会に参加し、認定試験に合格した方に症例を出していただくことで、認定を受けることができます。一方、在宅栄養専門管理栄養士は、在宅医療にかかわる地域の多職種と協働態勢を構築し、療養者や家族のQOLを支援する総合的な栄養マネジメントができるスーパーバイザーの役割を果たすもので、在宅訪問管理栄養士が在宅訪問栄養専門セミナーを受講し、エビデンスを蓄積することによって認定されます。平成23年から制度がスタートし、平成31年度現在の認定者数は772名、うち、在宅栄養専門管理栄養士は約31名となっています。

在宅医療は”待ったなし”!この10年が頑張りどころ

 在宅訪問管理栄養士の現状と課題について、認定者に調査を行いました(メール配信によるWEB回答、認定者716人中53.1%が回答)。雇用形態は常勤が最も多く、職域は多い順に病院、福祉施設、診療所となっていました。資格取得後の訪問件数は、取得年度と直近3ヶ月で比較して若干の増加は見られるものの、なかなか訪問実績が上がっていないという実情が浮かび上がりました。訪問実績の少ない理由としては、「訪問が可能な病院等に勤務していない」「訪問の依頼が少ない」などの回答が多く見られました。訪問指導を継続して拡大していくための実践活動として最も必要なことについては、「医師と連携する能力」「介護支援専門員との連携能力」「利用者に実態に合わせた具体的な指導能力」「管理栄養士としての栄養アセスメントの能力」などが多く挙げられています。

 今後に向けた重要な課題として、「多(他)職種への周知・啓発活動」「多(他)職種との連携」「地域包括ケアシステムへの参画」「訪問栄養指導の制度改革」などが挙げられています。医療保険制度では主治医と同じ施設に所属していないと訪問することができず、介護保険制度では居宅療養管理指導事業所でなければ請求することができないというような制度上の問題点があり、ここが改革されないと、訪問栄養食事指導の継続や拡大はなかなか難しいものがあるでしょう。また、「管理栄養士のスキルアップ」も必要不可欠です。在宅医療は“待ったなし”です。私たち管理栄養士・栄養士が、この10年間、頑張っていくしかないと思っています。

講演ダイジェスト動画

▽第21回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓

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