第21回ダノン健康栄養フォーラムより
高齢者の低栄養と運動機能
東京大学大学院 医学系研究科 加齢医学 准教授
小川 純人
平成28年の厚生労働省の統計によると、我が国における要支援の要因は、高齢による虚弱(フレイル)と、骨折、転倒、関節疾患(ロコモ)が全体の約半分を占めています。また、要介護の要因として認知症の占める割合は、統計をとるごとに増えています。要支援や要介護、さらには健康寿命の延伸について対策を考える時には、個別の病気を治すということだけでなく、もっと包括的、全人的な対応が重要になるでしょう。
フレイルとサルコペニア
一方、サルコペニアは日本語では加齢性筋肉減少症と呼ばれています。筋肉量は20~30代をピークに男女とも落ち、それに伴い死亡リスクも上昇すると言われています。筋肉は、熱産生、エネルギーの貯蔵、インスリンの感受性や抵抗性などにも関与する非常に重要な臓器とも言えます。そして、体の中には骨格筋でできているところが多くあります。例えば嚥下に関わる筋群も骨格筋です。筋肉が衰えれば転びやすくなるだけでなく、感染しやすくなり、床ずれも起きやすく、誤嚥性肺炎で亡くなりやすいということも知られています。高齢者の「年のせい」と考えられる諸症状(老年性症候群)の一端には、局所におけるサルコペニアの状態が関与しているという考え方もできるかもしれません。若いうちからしっかりと“貯筋”をしておくことが大事になるでしょう。
高齢者の低栄養
なお、「手段的日常生活動作(Instrumental Activity of Daily Living:IADL)」の評価に関連する動作として、預金の出し入れや電話などが挙げられますが、地域在住高齢者を対象とした調査により、預金の出し入れや電話を自分でできない人は3年間で4.5kg以上の体重減少を起こすリスクが2~3倍高くなる可能性が示されました。低栄養になった結果として日常生活を営むことが難しくなると思われがちですが、先々の低栄養のリスクを見るために予めIADLを評価することも大事なのではないかと思います。
フレイル・サルコペニアに対する予防介入
また、長野県においてプレフレイル、フレイルと食品摂取頻度の関連を調べたところ、男性においては肉、女性においては肉と魚の摂取頻度が少ないこととプレフレイル、フレイルに関連があることが示唆されました。フレイル予防の観点からは、栄養バランスの良い食生活の中で、少したんぱく質の摂取量に配慮することも大事かもしれません。
フレイル・サルコペニアの予防には「社会参加」も重要な要素です。ボランティアをしている方は自立度が高いという研究結果もあります。就労や余暇活動などの社会参加を促すことや、誰かと一緒に食事をする「共食」の機会を増やすことも大切でしょう。
低栄養の状態になれば、筋肉が減り、サルコペニアが進行します。そうすると身体活動量が落ちて、摂食力も落ち、そしてさらに低栄養が進みます。高齢者では、概してこのような負のスパイラルに陥りがちです。この負のスパイラルが回らないように、また、同じ回るならゆっくり回るようにしたいものです。そのためには、栄養対策が重要な柱になります。最近の診療報酬改定においても、平成28年から在宅患者の訪問栄養食事指導料が加算されるようになるなど、国としても管理栄養士の指導や活躍を一層重要視していることが分かります。高齢者のフレイル対策において管理栄養士の果たす役割は今後益々大きくなるものと期待されます。