2019/11/15

Vol.188 (2) 第21回ダノン健康栄養フォーラムより 「これからの管理栄養士への期待 ~日本人の食事摂取基準(2020年版)を踏まえて~

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.188
第21回ダノン健康栄養フォーラムより
これからの管理栄養士への期待 ~日本人の食事摂取基準(2020年版)を踏まえて~
厚生労働省 健康局健康課 栄養指導室 室長
 清野 富久江 氏

 日本では高齢化が世界に例を見ない速さで進んでいます。そして、高齢者が増加すれば、在宅医療や在宅介護を受ける方の数も増加します。2025年には、平成24年に比べて在宅医療を受ける人数が約1.7倍、在宅介護を受ける人数が約1.4倍に増加するとも試算されています。このような状況に管理栄養士がどのようにアプローチしていくのかが課題となっています。

栄養政策を取り巻く社会情勢と食事摂取基準(2020年版)の策定

  国では、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途として、重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるように、医療、介護、予防、住まい、生活支援を包括的に確保できる体制を身近な地域の中で作っていく「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。また、高齢者の低栄養やフレイルへの対策も進んでおり、昨年度より展開している高齢者の特性に応じた保健事業においても、フレイル対策(低栄養防止・重症化予防)に重点が置かれています。さらに、大きな社会情勢のひとつとして、政府全体で根拠に基づく政策(Evidence Based Policy Making)を推進していることが挙げられます。根拠に基づいて政策の目標を明確化させ、その目的のために一番効果があがる行政手段は何かを確認しながら政策の枠組みを作っていくことが求められています。

 国際的な動きとしては、2020年に「成長のための栄養サミット2020Nutrition for Growth(N4G) Summit)」が日本で開催されることが決まっています。栄養サミットはロンドンオリンピックを契機として国際的な栄養の取り組みを推進していこうというもので、栄養不良の子ども達を減らしていくという目標などが掲げられています。

 日本人の食事摂取基準(2020年版)の策定に向けた検討も、このような社会情勢を踏まえて行われました。高齢化の進行という観点では、高齢者の低栄養の予防そしてフレイル予防のための目標量の設定について検討されました。また、高齢社会において社会全体を支える担い手である若い世代、特に小児について、一部未策定だった摂取基準の設定についても検討されました。根拠に基づく政策立案の推進という観点では、国際指針も踏まえたレビューの方法や記載の標準化、透明化を図ろうということで、目標量についてエビデンスレベルが記載されることになりました。また、国際的な動きという観点では、栄養サミットの開催に合わせ、食事摂取基準をはじめとした日本の政策を海外に積極的に発信することについて検討されました。

 各値の策定に用いた考え方は栄養素によって異なり、それについて理解が進むように、2020年版では脚注などを充実させているので、しっかりと解説の部分を読んで活用していただければと思います。す。

健康寿命の延伸に向けた取り組み

 2040年には高齢者数が急増し、現役世代の数が急減するという局面を迎えます。厚生労働省ではその点への対応について、①就労、②健康寿命の延伸、③医療・福祉サービスの改革、④持続可能な社会保障制度の確保という4つの視点で検討してきました。その中で、特に栄養と関連が深いのが“健康寿命の延伸”です。毎年、「経済財政運営と改革の基本方針」が閣議決定されており、今回の基本方針には栄養に関係する内容も記載されています。その中には、人生100年時代の安心の基盤は健康であるという考えのもと、健康寿命を延ばすために個人の健康を改善することで個人のQOLを向上し将来不安を解消すること、健康寿命を延ばし健康に働く方を増やすことで社会保障の担い手を増やすこと、高齢者が重要な地域社会の基盤を支え健康格差の拡大を防止することなどが記されています。また、地域、保険者間の健康格差の解消に向けて、自然に健康になれる環境づくりや行動変容を促す仕掛けづくりなどを踏まえた「健康寿命延伸プラン」の策定をしているところです。

これからの管理栄養士への期待

 健康寿命の延伸を実現する上で、管理栄養士は非常に大きな役割を担っています。地域包括ケアシステムの構築や推進に向けて、一人一人の生活の視点を踏まえてきめ細やかな対応をすることが管理栄養士に求められています。また、医療や介護をはじめとして栄養管理の質の向上が求められる一方で働き手の減少も見込まれており、効果的・効率的なアプローチのために多職種連携が進むと考えられます。このような中で、管理栄養士には、複雑な栄養課題に対応できる資質が求められます。エビデンスやデータに基づいた論理的思考によって、いかに最適解を導き出せるかが問われてくるでしょう。

 管理栄養士の仕事の場は、乳幼児から児童生徒、成人、高齢者と様々です。厚生労働省においても、平成12年に栄養士法を改正して以降「ヒューマンニュートリション」に着目し、管理栄養士・栄養士の育成をしてきています。対象者の生活なども踏まえて栄養管理を行える広い視野を持って仕事ができる管理栄養士・栄養士であることが、今後一層求められるのではないかと考えています。栄養の専門職として、科学的根拠に基づいて一人一人の生活や暮らしに寄り添う管理栄養士の皆さんの活躍に期待しています。

▽第21回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓

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