2014/01/06

Vol.105(2) 第15回ダノン健康・栄養フォーラムより 「時間栄養学」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.105
第15回ダノン健康・栄養フォーラムより
時間栄養学
早稲田大学先進理工学研究科電気・情報生命専攻
教授 柴田 重信 先生
 1997年に「時計遺伝子」が発見され、私たちの体に備わる「体内時計」の仕組みが解明されてきました。体内時計には「周期」「位相」「振幅」の3つの要素があります。体内時計は約24.5時間の周期を持っていますが、地球はほぼ24時間で回っているため、30分の差を毎日調整しないと遅れが出てしまいます。位相とは「時計の針がどこをさしているか」ということです。体内時計も標準時間に対して時刻の進みや遅れを決めており、ずれてくるといわゆる時差ボケのような状態になります。振幅は「変動の大きさ」です。例えば体温は変動の幅は小さいものの非常に正確に体内時計に制御されています。他にも様々な振幅があり、一般に歳をとると振幅は小さくなると言われています。
 
体内時計と光刺激
 
 体内時計の調整に非常に重要なのが、外界の光刺激です。特に朝日は、1日のリズムを刻むのに重要な役割を果たしています。私たちの体内時計は、24時間より長いので、暗闇の中では日々寝る時間が後ろにずれていきます。しかし、起床時に光を当てると時計が前進し、早く起き上がるようになります(位相前進)。また、入眠時に光を当てると体内時計が遅れ、翌日の入眠時間が遅くなる(位相後退)というデータがあります。つまり、夜遅い時間に強い光を浴びると良くないということです。遅い時間にコンビニをうろついたり、週末に遅くまでビデオを見たりしていると、だんだん時計が遅れてしまいます。そういったことが続くと、いわゆるブルーマンデーのように、なかなか起き上がれないということにもつながります。
 
 朝食も体内時計のリズムを作るのに非常に大事であることが分かってきました。「早寝・早起き・朝ごはん」という運動がありますが、早起きをすることで朝日を浴びることができ、また朝食を食べることができます。それが体内時計をリセットするのに良いだろうということです。
 
体内時計と食・栄養との関係  
 
 朝食は英語でbreakfastですが、これは「絶食(fast)」を「破る(break)」ことを意味します。長く絶食した後でとる食事のことを朝食と言っているわけです。マウスを使った実験でも、体内時計は長時間絶食後の食事の時刻に依存する、つまり朝食が体内時計をリセットしやすいということがわかりました。また、絶食時間を等間隔にとった「ダラダラ食い」の状態では、食事による時計のリセット効果がないことが分かりました。夕食を早めに食べ終わり、しっかり睡眠をとって絶食した上で食べるからこそ、朝食の意味があるということです。
 
 また、最後の1食が遅くなると、体内時計もそれにひっぱられて夜型になるということも分かっています。夕食の時間がどうしても遅くなってしまう人も多くいますが、このような場合、夕食を分割して、早い時間に半分食べておいて帰ってきてから半分食べるというようにすると、体内時計が乱れにくくなります。さらに、朝食と夕食で、朝食にウェイトを置いた食事は太りにくく、1日1食にすると食べるのが朝食でも夕食でも太りやすくなります。
 
 高脂肪食の摂取について朝食と夕食で比較した実験では、夕食に高脂肪食を食べると、肥満になりやすく血糖値や脂肪率も高くなるという結果が得られました。
 
 これらをまとめると、「朝食にウェイトを置いた食事は太りにくく、1食よりも分食が太りにくい。また、非活動期の高カロリー食(夜食)は太りやすい」ということが言えるでしょう。
 
 また、最近では交代制勤務(シフトワーク)の人も多くなっています。日勤だったり夜勤だったりするシフトワークのような生活パターンでは、私たちの体は体内時計を合わせられなくなります。本当は寝ていなければいけない時間に動いていたりすることが続くと、体内時計の振幅が低下し、体内時計が休んだ状態になります。振幅の低下と体重増加には相関があります。つまり、太りやすくなるということです。なお、シフトワークで体内時計のリズムが乱れた場合でも、食事制限と運動を行うことで体内時計の改善効果があります。
 
時間運動学
 
 マウスに輪回し運動をさせる実験で、運動する時間を朝もしくは夕方に制限して比較したところ、夕方に運動させたマウスの方が、朝運動させたマウスよりも太らないという結果が得られました。朝運動したマウスの体重増加率は運動なしのマウスとあまり変わりませんでした。夜に運動するとエネルギーの消費が高まり、寝ている間も脂質を燃やしていることになります。ところが、朝に運動した場合は呼吸商があまり下がらない、つまり脂肪を燃やせない状況になっています。
 
 また、運動してから食事をするか、食事をしてから運動をするかで比べてみると、運動してから食事をする方が太りやすいという結果になりました。力士も朝に練習して昼にちゃんこなどをたくさん食べますが、そのような生活パターンは太りやすいということです。逆に言えば、食事をした後に運動をすれば、エネルギーがきちんと使われます。このように、運動による効果も時間の単位で見ることができるのです。
 
将来の展望
 
 今、私たちは「時間栄養学」だけではなく「週間栄養学」という概念に着目しています。1週間というのは人間が文化的に作ったリズムですが、このようなリズムが大事だろうと考え、研究をしています。ソーシャル・ジェットラグと言われていますが、月曜から金曜まではまじめに働いているけれど土日はダラダラ過ごすような生活パターンは良くないという論文も出ています。1週間のうち2日間だけダラダラするのでも太ってくる、というものです。時間栄養学、時間運動学、時間休息学などは非常に大事なファクターですが、これに「週間」という概念も踏まえて「時間軸の健康科学」を捉えることが、これから先重要なのではないかと考えています 。

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