2019/08/10

Vol.184 (3) 健康・栄養に関する学術情報 「話題の腸内細菌は医薬品として活用できるようになるのか?」

 

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.184
健康・栄養に関する学術情報
話題の腸内細菌は医薬品として活用できるようになるのか?

 ヒトの腸内細菌叢と健康との関わりに関する研究の端緒は約40年程前の光岡博士の一連の研究にまでさかのぼることになります。現行の機能性研究の発想の大半は、光岡博士の当時の研究に端を発しているといって過言ではありません。現在はより精緻な解析手法が確立され、迅速に詳細なデータが入手できるようになったために、解析精度は飛躍的に高まっています。

さて、数100種類、100兆個にもおよぶこの膨大な微生物集団は、ヒトの約100倍に及ぶ遺伝子(約300万個)を抱え、様々な代謝産物の生産に関わると考えられることから、それらが我々の生理機能を修飾している可能性があると著者は述べています。実際に、糖代謝の修飾にはじまり、免疫機能の調節、最近では、脳機能の修飾にまで影響が広がると考えられています。

当然ながら、これほどまでに注目されれば、これらを逆手に取った創薬を考える人が出てくることは自然です。現在考えられている対象疾患は代謝疾患、免疫疾患、感染症、ならびに精神・神経系疾患などです、これらは、腸内細菌叢の構成の乱れ(ディスバイオ-シス)が原因とされています。これらを是正するための方法には大きく3種類が考えられています。一つは、特定の腸内細菌を補充して、全体のバランスの乱れを解消しようとする方法です。2番目の方策は、逆に原因となる腸内細菌を選択的に間引いてバランスを調節する方法です。最後は、これまでに特定の疾患に有効性が期待されるプロバイオティクスに対して遺伝子改変を加え、その機能強化を施す方法です。

各々について特徴を示しますと、補充法は患者と健常人の腸内細菌叢を比較し、不足している菌を選択的に補充する手法で、糞便移植法なども含まれます。偽膜性大腸炎、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群などに応用が検討されています。また、特定の腸内細菌を補充する方法は偽膜性大腸炎に応用されています。また、自閉症への応用も検討されています。腸内細菌の選択的除去法については、ディフィシル菌、腸管出血性大腸菌O157、および緑膿菌など病原菌に対して選択的に働く改良型バクテリオシンの応用が検討されています。遺伝子改変プロバイオティクスについては、細菌ならびにウイルス感染防御、さらには炎症性腸疾患の改善などへの応用が、さらには肥満症や糖尿病など代謝疾患への応用も進んでいます。

参考

詳細は下記論文をご参照下さい。

金 倫基 「腸内細菌叢の機能と創薬応用の可能性について」

ファルマシア 53(11) : 1091-1094,2017

本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/53/11/53_1091/_pdf/-char/ja

 

一覧へ戻る