2017年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
肝臓関連生活習慣病に対するプロバイオティクスの有用性
慶應義塾大学 医学部 内科学(消化器)
中本 伸宏 先生
要旨
肝臓は門脈経由にて常に食事由来抗原や微生物由来の抗原の暴露を受けています。したがって、肝臓では免疫応答と免疫寛容が絶妙なバランスをとっていることになります。肝臓類洞内に存在する免疫細胞はToll様受容体(TLR)を代表とする微生物パターン認識受容体を発現しており、抗原刺激に対応して免疫応答を生じ、肝細胞の障害に関与する一方、過剰な免疫応答は抑制性免疫応答を誘導し、炎症の鎮静化、組織の再生に寄与すると考えられています。
近年、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が腸管炎症性疾患のみならず、糖尿病や多発性硬化症など、腸管以外でも病態に寄与することが明らかになっています。肝臓でも、アルコール性肝障害、非アルコール性肝障害(NASH)、原発性硬化胆管炎などの病態と腸内細菌の連関が報告されています。これらのことから、筆者はコンカナバリンA(ConA)誘導急性肝障害モデルマウスならびに高脂肪食誘導性脂肪肝モデルマウスを使用して、肝臓内での免疫応答・免疫寛容に関与する免疫担当細胞について検討したうえで、これらに対する腸内細菌の影響を評価し、さらには腸と肝臓とのクロストークについての知見を得ることを目的として検討しています。
【内容】
腸内細菌、および腸内細菌関連抗原と免疫細胞の相互作用が腸管疾患のみならず腸管外臓器である肝臓疾患の病態に寄与することが知られているが、その詳細な機序については明らかにされていない。本研究において、マウスConcanavalin A (ConA)惹起T細胞応答性急性肝障害モデルを用いて、投与早期の免疫応答期にTNF産生性CD11b+マクロファージがTh1活性化を介して肝障害の病態形成に重要な役割を果たす一方、投与7日目の免疫寛容期にCD11c+通常型樹状細胞(classical dendritic cells: cDCs)がTLR9依存的にIL-10を産生し、肝障害の軽減に寄与することが明らかになった。腸内細菌の解析の結果、ConA投与後免疫寛容期にLactobacillus属が著明に増加し、Lactobacillus johnsoniiの単菌投与により大腸のIL-22産生自然免疫細胞(innate lymphoid cells: ILC)が増加した。さらに腸管由来IL-22は腸管バリアの修復とともに、肝臓内のIL-10産生免疫抑制性cDCの誘導を介して過剰な免疫応答を抑制した。以上の結果より、有益な腸内細菌が遠隔的に肝臓内の免疫応答を制御する可能性が示唆され、種々の肝臓疾患に対する腸内細菌を標的とした新規治療法の開発が期待される。