2017年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
京丹後地域百寿者コホートを対象にした健康長寿に関連する腸内細菌叢解析
京都府立医科大学大学院 医学研究科
内藤 裕二 先生
要旨
京丹後市は百寿者が多く、全国平均の2.5倍の比率となる130名を擁する長寿地域である(2016年4月時点)。京都府立医科大学では、健康長寿と関連する腸内細菌構成を明らかにする目的で、16SrRNAメタゲノム解析を実施し、腸内細菌と長寿との関連を詳細に検討するコホート研究を開始した。
次世代シーケンサーによる16S rRNAメタゲノム解析を用いた日本人腸内細菌叢の実態調査を京都府中心に実施した。対象は京丹後市の高齢者(京丹後地域百寿者コホート)を含めて広く成人を対象にした。腸内細菌叢のメタゲノム解析は、細菌特異的16S rRNA V3-V4領域をPCR法により増幅し、MiSeq次世代シーケンサーを利用した測定システムを構築した。277名の糞便を対象に、性別、年代別、ブリストル便性状スコア別の腸内細菌叢を解析し、以下の結果を得た。1)男女別の腸内細菌叢多様性(β-diversity)に対するUniFrac主座標分析ではweighted、unweighted共に有意な差があり、日本人の腸内細菌叢には性差が存在することを明らかにした。2)α-diversity分析ではChao-1 index、Shannon index共に性差はなく、菌数指標(observed species)にも性差を認めず、世代別解析においてもこれらの指標に加齢による変化は認めなかった。3)門(phylum)レベルの解析では、腸内細菌叢の主を占める菌はFirmicutes、Bacteroidedes、Accinobacteria、Proteobacteriaの4門であり、男女ともに有意な変動を認めなかった。4)属レベルの解析では、男女差を認め、女性に比較して男性ではPrevotella、Megamonas、Fusobacterium、Megasphaeraの割合が高く、男性に比較して女性ではBifidobacterium、Ruminoccus、Akkermanciaの割合が高かった。5)ブリストル便性状スコアは約50%がスコア4(正常便)であった。女性ではスコア1、2の割合が全世代を通じて高く20%弱を占めていた。男性ではスコア5、6の軟便傾向が3分の1を占め、その傾向は若年層で著明であった。ブリストルスコア別の腸内細菌叢の比較では、Observed species、Chao-1 index、Shannon indexともに大きな差を認めなかった。属レベルの解析では、便秘傾向あるいは軟便傾向に特徴的な細菌叢の候補を同定することができた。日本人を対象にした腸内細菌叢を測定、解析するシステムを確立した。今後、臨床的な因子、食生活を含めた環境因子などとの相関解析を進め、京丹後市地域の健康長寿に対する解析を進めて行く予定である。
(本研究成果はJ Gastroenterol 2019,54: 53-63に掲載された。)