2017/10/13

Vol.159 (2) 2015年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告 「地域在住高齢者における乳製品の摂取状況とサルコペニア重症度との関連の検討」

2015年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
 地域在住高齢者における乳製品の摂取状況とサルコぺニア重症度との関連の検討
 独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所 
 
平野 浩彦 先生

 日本は他の先進諸国に類を見ない速さで超高齢社会に突入し、我が国がいかに対応するかが世界的にも注目を浴びている。Friedらにより、Frailty Cycle というモデルが提唱され、低栄養、筋肉量の低下を通して、筋力低下、疲労、基礎代謝量の低下などを惹起し、要介護状態に陥る悪循環が示されている。このモデルの中心要素に筋量の減少、握力の低下、歩行速度の低下を示すsarcopeniaが位置し、sarcopeniaの予防・改善によりFrailty Cycleの悪循環の抑制が期待されている。本研究では、地域在住高齢者の牛乳摂取量に焦点をあて、牛乳摂取量とsarcopenia発症の関わりを検討し、高齢者の食事介入への基礎資料を得るため調査を行った。

要旨

 対象者は東京都板橋区在住の地域在住高齢者679名である。調査項目は、年齢、性別、食事、身体組成、運動機能、骨密度とした。対象者は牛乳摂取量の中央値およびsarcopenia分類(Asian Working Group for Sarcopenia (AWGS):アジア人のためのsarcopenia診断基準)により群分けし、牛乳摂取量とsarcopeniaとの関わりを検討した。 調査の結果、1日当たりの牛乳摂取量が165g(本調査の牛乳摂取量中央値)以上の者で、SMI(skeletal muscle index:骨格筋量の指標)が有意に高値を示すこと、エネルギー摂取量が多いこと、たんぱく質摂取量が有意に多いことが明らかとなり、牛乳摂取量の多寡とsarcopeniaが有意な関連を示し、高齢者における牛乳摂取量の有用性が示唆された。 sarcopenia予防に牛乳摂取が有効である可能性が示唆され、牛乳は高齢者のsarcopenia予防のための食支援介入の一助となると考えられた。今後、運動療法等を含んだ多角的なアプローチとの関わりの検討や、縦断研究により牛乳摂取とsarcopenia発生との因果関係を明らかにすることで、本研究知見のさらなる発展が期待される。

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