2025/04/23

Vol.258 (3) トピックス 「健康的な食事の4原則とは?FAOとWHOによる共同声明の日本語版が公開」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.258   2025年5月1日発行

「健康的な食事の4原則とは?FAOとWHOによる共同声明の日本語版が公開」

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所は2025年3月、「健康的な食事とは?国際連合食糧農業機関と世界保健機関による共同声明」の日本語版を公開しました。この声明は、国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が2024年10月に発表したもので、健康的な食事の構成についての原則が示されています。

健康な食事の4つの基本原則

共同声明では、健康的な食事について「世界中で適応でき、人類生物学に基づき、エビデンスに裏打ちされた普遍的な4つの基本原則を満たす必要がある」とし、「適切(Adequate)」「バランス(Balanced)」「適度(Moderate)」「多様(Diverse)」を挙げています。

  1. 適切(Adequate):欠乏症を防ぎ、健康を促進するために必要な栄養素を、過剰に摂取することなく十分に提供すること。

適切な食事とは、年齢、性別、体格、体組成、身体活動レベル、妊娠などの生理的状態、病状に応じた食事摂取基準を、超過することなく満たすものです。

必須栄養素はあらゆる身体機能に関与しており、その摂取不足は、ビタミンC欠乏による壊血病やビタミンD欠乏によるくる病のような欠乏症状を引き起こします。これらの欠乏症の多くは、現在は世界のほとんどの地域で見られなくなっていますが、発育不全、脳の発達障害、免疫系の機能障害等の多くは、複数の栄養素の欠乏などの影響を受けています。とくに生後0ヵ月から23ヵ月の子どもの食事摂取基準を満たすことは、成長や発達、消費される食品の総量が少ないという観点から重要としています。具体的には、生後0ヵ月から6ヵ月の乳児には、母乳のみを与えて食事摂取基準を満たすべきとされます。生後6ヵ月になると、母乳育児の継続に加えて、良質なたんぱく質や主要ビタミン・ミネラルの供給源となる肉や魚, 卵を含む動物性食品を毎日摂取することを推奨しています。

  1. バランス(Balanced):健康的な体重、成長、疾病予防を推進するために、エネルギー摂取量、エネルギー産生栄養素(脂質、炭水化物、たんぱく質)の摂取比率を考慮すること。

健康的な食事では、主要なエネルギー源であるたんぱく質、脂質、炭水化物について適切なバランスがとれている必要があります。これらの栄養素の必要量は総エネルギー摂取量に占めるべき割合で表され、成人の場合、たんぱく質10~15%、脂質15~30%、炭水化物45~75%であることが推奨されています。

なお、たんぱく質について、成人期では心代謝性疾患のリスクを減らすため、より植物性のたんぱく質源食品に代えることが望ましい場合があり、その他の状況では、栄養摂取を促進する観点から、動物性食品を摂取することが依然重要であるとしています。

摂取する脂肪は主に不飽和脂肪酸であるべきで, 総エネルギー摂取量の6~10%はリノール酸、α-リノレン酸、長鎖多価不飽和脂肪酸を含む多価不飽和脂肪酸から摂取すべきであるとしています。

また、炭水化物は、主に全粒穀物、野菜、果物、豆類から摂取すべきであり、成人では400g以上の野菜と果物、および25g以上の自然由来の食物繊維を毎日摂取することを目標とすべきであるとしています。

  1. 適度(Moderate):健康に有害な影響を及ぼす食品、栄養素、その他の化合物の摂取を制限すること。

一部の栄養素は、必須であっても摂取量が多ければ健康に悪影響を及ぼす可能性があり、また、その他の非必須栄養素は健康への悪影響と関連しているものもあるため、適度に摂取するか食事から除外すべきであるとされ、具体的に次のようなポイントが挙げられています。

  • ナトリウムは必須ミネラルであるが、摂取量が多いと血圧が上昇し循環器疾患の原因となるため、成人では食塩相当量で5g/日未満に制限すべき。
  • 遊離糖類(free sugar)は必須栄養素ではなく、摂取量は1日のエネルギー摂取量の10%未満に制限されるべきであり、5%未満であればさらなる健康効果が期待できる。
  • 飽和脂肪酸の摂取量は1日のエネルギー摂取量の10%以下、トランス脂肪酸の摂取量は1日のエネルギー摂取量の1%以下とする。
  • この他、多量に摂取した場合に健康に悪影響を及ぼす可能性のある食品として、赤肉(※1)及び加工肉と、超加工食品(ultra-processed foods: UPF)が挙げられている。

 赤肉の高摂取は、複数の疾患リスクの増加と関連しており、加工された赤身肉の摂取は、たとえ低摂取であっても、健康に悪影 響を及ぼす可能性があることを示唆するエビデンスが増えている。また、超加工食品の多量の摂取が、早期死亡、がん、心血管疾、過体重、肥満、2型糖尿病のリスクや精神、呼吸器、胃腸など、健康上の悪い結果と関連していることを示唆するエビデンスは多く、増え続けている。しかし、許容可能な超加工食品の摂取量はまだ定義されておらず、今後の研究が必要である。

※1赤肉・・・英語で「red meat」といい、牛肉、豚肉、羊肉などのこと。日本語で「赤身の肉」というとらえ方とは異なる。

※2超加工食品…食品をその加工度合いで分類する「NOVA分類」において加工度合いが最も高いとされる食品で、脂質、砂糖や人工甘味料、ナトリウム、食品添加物を多く含み、さまざまな加工によって元の食材の構造が変化している。インスタント食品や清涼飲料水などが該当する。

  1. 多様(Diverse):栄養素の適切さとその他の健康を推進する物質の摂取を促進するため、食品群内および食品群間で栄養価の高い食品を幅広く含めること。

食品群間、食品群内のいずれにおいても、多種多様な食品から成る食事ではビタミンやミネラルの必要量を満たす可能性が高くなります。また、いくつかの前向き研究で、食品群の多様性が高い者、特定の食品群(果物や野菜など)の多様性が高い者、食事パターン全体の多様性が高い者では死亡率や食事に関連した非感染性疾患(NCDs)の発生率が低いことも報告されています。これらのことから、食事の多様性は健康的な食事の基本要素であり、食事に関する様々なガイドライン等でも提唱されている公衆衛生の基本原則であるとしています。

共同声明は「結論:健康的な食事パターンを認識し称賛する」の章のなかで、健康的な食事の原則が普遍的なものであるのに対し、食事パターン(長期にわたって消費される食品と飲料の組み合わせ)については、嗜好や信念、文化、伝統、宗教、収入、食品の入手しやすさなどの社会的、経済的、環境的な要因によって決定される非常に文脈的なものであるとしています。また、上記の4つの基本原則を満たし安全な食品で構成されている限り、多くの食事パターンが健康的であり、それらは地域の事情やエビデンスに基づいて作成された各国のガイドラインに明示されているとしています。


詳細はこちらをご参照ください。

What are healthy diets? Joint statement by the Food and Agriculture Organization of the United Nations and the World Health Organization(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)

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