2025/03/01

Vol.256 (3) トピックス 「改めて食塩について考えてみませんか?」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.256   2025年3月3日発行

「改めて食塩について考えてみませんか?」

食塩は、古くから私たちの食生活を支えてきた調味料です。調味料としての塩には、主に次のような役割があります。

…食品に塩味が加わることでおいしさを増す。また、適度な塩味には食欲を増進する効果が期待できる。

…緑色の野菜をゆでる際に塩を加えると色よく仕上がる。また、りんごなどを塩水に漬けると酸化による変色を防ぐことができる。

保存…食品を塩蔵することで長期保存を可能にする。

食塩の構成成分であるナトリウムは、カルシウムや鉄など同様に人体にとって必須のミネラルです。成人の体内には約100gのナトリウムが存在し、そのうちの約50%が細胞外液(血液、消化液など)に、約40%が骨に、約10%が細胞内液に含まれています。ナトリウムは消化液の材料となる他、体内の浸透圧、pHや水分量を一定に保つ働きをしています。

体にとって必要な最低限のナトリウム摂取量について明確な定義はありませんが、WHOのガイドラインでは200~500mg/日(食塩相当量で約0.5~1.3g/日)と推定されています。また、日本人の食事摂取基準(2025年版)では、成人におけるナトリウムの推定平均必要量を男女とも食塩相当量で1.5g/日としています。しかし、通常の食事で日本人の食塩摂取量がこの数値を下回ることはなく、むしろ過剰摂取が大きな問題となっています。

長期的には減っているけれど…

令和5年「国民健康・栄養調査」によると、食塩摂取量の平均値は 9.8g(男性10.7g、女性9.1g)となっています。平成7年(1995年)の平均値は13.9gであり、日本人の食塩摂取量は長期的には減少傾向にあるといえますが、ここ10年間では男女ともに有意な減少は見られません(図1、2)。健康日本 21(第三次)では、食塩摂取量の平均値を7gに減少するという目標を掲げていますが、その達成への道のりは長いのが現状といえるでしょう。

図1 日本の食塩摂取量の平均値推移

日本人の栄養と健康の変遷(厚生労働省)より

図2 食塩摂取量の平均値の年次推移(20歳以上)

令和5年国民健康・栄養調査結果の概要(厚生労働省)より

食塩の過剰摂取は、高血圧を引き起こして脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患のリスクを高めるだけでなく、胃がんのリスクも高めます。さらに、食塩の摂取が増加するとカルシウムの排泄が促進されることが知られており、食塩の過剰摂取は骨粗鬆症の危険因子の1つとされています。豊かな食生活と健康を両立するためにも、食塩とうまくつき合うことが求められます。

イギリスの減塩作戦

減塩は、日本のみならず世界の健康課題となっています。2011年に国連が発表した「生活習慣病対策のために世界が行うべき5つのアクション」では、たばこ(禁煙)に次ぐ重要課題として食塩(減塩)が挙げられています。

減塩を妨げる要因の1つに「加工食品に含まれる食塩」があります。ここに着目して国民の食塩摂取量の減少に成功したのがイギリスです。イギリスでは国民の食塩摂取源の2割弱がパンによるものであったことから、パンの製造事業者に対し、時間をかけて段階的に食塩量を減らしていくことを働きかけました。この作戦は功を奏しました。2001年から10年をかけて、消費者に食塩量が減ったことを感じさせることなくパンを20%減塩することに成功したのです。また、2003年から2011年の8年間で国民の食塩摂取量が9.5gから8.1gに減少するとともに、血圧が低下し、循環器疾患による死亡も減少しました。

現在日本においても、厚生労働省の「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」を中心に減塩の取組が進められています。産官学等の連携のもと、誰もが自然に減塩できるような仕組みを作っていくとともに、管理栄養士をはじめとする食の専門家によって個人の減塩意識を高める働きかけを行っていくことが重要でしょう。






参考

栄養素等に関する情報(国立健康・栄養研究所)https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/other/topics.html

日本人の食事摂取基準(2025年版)(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf

令和5年国民健康・栄養調査結果の概要(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf

日本人の栄養と健康の変遷(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000894080.pdf

e‐ヘルスネット「骨粗鬆症の予防のための食生活」(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-007.html


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