2025/01/04

Vol.254 (3) トピックス 「骨粗鬆症と栄養」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.254   2025年1月6日発行

骨粗鬆症と栄養

 令和6年10月11日、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書を公表しました。同年4月より始まった健康日本21(第三次)において、生活習慣の改善や生活習慣病の発症及び重症化の予防に加えて、社会生活に必要な機能の維持・向上等の観点も踏まえた取組を推進するという方針が掲げられていることを踏まえ、今回の改定では、新たに骨粗鬆症とエネルギー・栄養素との関連についての記載が追加されました。骨粗鬆症は骨折のリスクを高めます。そして、骨折は要介護の原因の上位を占めています。健康長寿社会の実現に向け、骨の健康対策が必要不可欠といえるでしょう。

 そこで今回は、改定された食事摂取基準を中心に、骨粗鬆症や関連する栄養素についてまとめました。

骨量・骨質と骨粗鬆症

 骨の状態を評価する指標として「骨量(骨密度)」や「骨質」が挙げられます。「骨量」とは骨に含まれるカルシウムなどのミネラルの量のことで、骨を構成するミネラルがどのくらい詰まっているかを示す「骨密度」によって評価されます。また、「骨質」には、骨の構造や材質などの状態が関わっています。骨の強度は70%が骨量、30%が骨質によって決まると考えられています。

 骨粗鬆症は、骨量の低下と骨質の劣化によって骨の強度が低下し、骨折のリスクが増大する病気です。日本における患者数は増加傾向にあり、2022年のデータでは約1,590万人(女性1,180万人、男性410万人)と推計されています。骨粗鬆症には、明らかな原因疾患のない「原発性骨粗鬆症」と、閉経や加齢以外の何らかの原因によって二次的に引き起こされる「続発性骨粗鬆症」があり、原発性骨粗鬆症は以下の基準によって診断されます。

① 脆弱性骨折がある場合
・骨折の部位が大腿骨か椎体である場合は骨密度に関係なく骨粗鬆症と診断
・骨折の部位がそれ以外の場合は骨密度が若年成人の平均値の80%未満であれば骨粗鬆症と診断

② 脆弱性骨折がない場合
・骨密度が若年成人の平均値の70%以下または-2.5標準偏差以下であれば骨粗鬆症と診断

脆弱性骨折とは、立った姿勢からの転倒か、それよりも弱い外力によって生じる骨折のことです。脆弱性骨折は、健康な場合には骨折までには至らない「転んで手をついた」「尻もちをついた」程度の外力で引き起こされ、特に、重いものを持った衝撃や自分の体重によって起こる腰椎や胸椎の圧迫骨折は“いつの間にか骨折”とも呼ばれています。大腿骨近位部(脚の付け根や股関節に近い部位)の骨折や背骨を構成する椎体の骨折は死亡リスクを高めることも知られています。

骨に関連する主な栄養素と骨粗鬆症予防

① カルシウム

カルシウムは骨を形成する重要なミネラルです。また、カルシウムが不足すると副甲状腺ホルモンの分泌増加によって骨吸収が亢進して骨密度を低下させます。骨量の維持には十分なカルシウム摂取が必要であり、食事摂取基準においても骨量を維持するために必要な量として、カルシウムの推定平均必要量と推奨量が設定されています。一方で、中高年においてはカルシウムの摂取量を増やしても骨密度の低下や骨折予防の効果は小さいと考えられています。

なお、1,000㎎/日以上のカルシウムサプリメントの使用については心筋梗塞のリスクが上昇するとの報告があり、これに否定的な見解もあるものの、特に1,000㎎/日以上のカルシウムサプリメントの使用には慎重になるべきとされています。

② ビタミンD

ビタミンDは骨の再石灰化を促進します。ビタミンDの栄養状態の指標として、25‐ヒドロキシビタミンDがあります。この血中濃度が20ng/ml以上であるとカルシウム吸収率や骨量の低下のリスクが下がることが知られていることから、血中25‐ヒドロキシビタミンD濃度を20ng/ml以上に保つことが骨粗鬆症予防の観点からも重要だといえます。一方で、通常の食品からビタミンDの摂取を増やした場合に骨折のリスクが低下するかについては、ほとんど報告されていません。この理由として、ビタミンDが日光に当たることによって皮膚で産生されるため、食事によるビタミンD摂取量と骨粗鬆症との関連の評価が困難であることが挙げられます。このことから、体内のビタミンDを維持するためには、食事からの摂取とともに適度に(※)日光に当たることが望ましいとされています。

※東京の場合、夏季は1日1回30分程度、冬季は1日1回1時間程度、日光に当たることが推奨されています(地域等の条件によって推奨される時間は異なります)。

③ たんぱく質

たんぱく質は、骨の重要な構成要素の1つです。しかし、様々な研究の結果から、たんぱく質の付加による骨密度の増加は、臨床的に有用といえるほど大きくないと考えられており、現時点では骨粗鬆症予防においてたんぱく質の摂取がどの程度影響するかについて一定の結論を出すのは難しいとされています。

④ その他の栄養素

エネルギー(体格)については、骨粗鬆症の予防、骨折リスクの低減のために低体重は回避するべきと考えられています。また、現時点では骨粗鬆症の予防のために、ビタミンC、ビタミンKの積極的な摂取を勧める根拠はないとされています。

参考

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html

公益財団法人骨粗鬆症財団

https://www.jpof.or.jp

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