メールマガジン「Nutrition News」 Vol.250 2024年9月1日発行
「海洋プラスチックが私たちの生活に与える影響とは?」
食品トレー、調味料のボトル、医療用プラスチック、文房具やスマホケースなど、プラスチックは私たちの生活において当たり前の素材となっています。しかし、近年このプラスチックが問題視されていることをご存じでしょうか。特によく耳にするのが「海洋プラスチックごみ問題」であり、中でも「マイクロプラスチック」は海洋環境に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。
マイクロプラスチックとは
海に浮かぶ様々なゴミは、海洋環境の悪化だけでなく漁業、観光、景観などの面でも多大な影響を及ぼします。中でも近年問題となっているのが、“海洋プラスチックごみ”です。1950年以降、83億トンを超えるプラスチックが生産されていますが、そのうち63億トンはごみとして廃棄されているという試算もあり、このままでは2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えるともいわれています。
海洋に漂うプラスチックごみは太陽の熱や紫外線、波の力などによって劣化して砕け、どんどん小さくなっていきます。このように小さくなったプラスチックの破片のうち、5ミリ以下のものは「マイクロプラスチック」と呼ばれます。このマイクロプラスチックは北極や南極でも検出されています。海洋プラスチックごみの問題は、日本のみならず世界全体の課題となっているのです。
マイクロプラスチックが問題となる理由は?
プラスチックを生産する過程で必要な添加剤の中には有害なものもあり、それはマイクロプラスチックになっても残ります。また、マイクロプラスチックは海中の有害物質(残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれるもので、PCB、ダイオキシン、DDTなど)を取り込みやすいことがわかっています。海洋生物がマイクロプラスチックを摂取した結果、これらの有害物質が体内に蓄積される可能性もあるといわれています。実験室レベルでは、プラスチックの誤食により海洋生物がこれらの物質を取り込むことで、炎症反応や摂食障害につながる場合があることがわかっています。さらに、マイクロプラスチックはその小ささから、回収することが困難であることも大きな問題です。
海の生態系は、動物性プランクトン、小型の魚介類、大型の魚介類や海鳥等による食物連鎖で成り立っています。マイクロプラスチックが人体に及ぼす影響(健康被害)はまだわかっていませんが、自然界では分解されにくいプラスチックや、プラスチックに吸着した有害物質が食物連鎖によって次の生物へと受け継がれてしまうことは、私たちが真剣に考えなければならない問題のひとつといえるでしょう。
魚介類は、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなど健康維持に必要な栄養素を多く含んでいます。また、日本の食文化を支えてきた大切な食材のひとつです。海を守ることは、私たちの生活を守ることにもつながります。広大な海の中で起きているこの問題には、陸地で生活をしている私たち人間が作り出したプラスチックが関わっています。そしてそれは巡り巡って食物連鎖の頂点にいる私たちの元へと返ってきます。安心・安全な食を持続可能なものにするためには、このままでは決して減ることのないプラスチックとの付き合い方を一人一人が考え、行動する必要があります。
物があふれ、それを自由に選べる時代だからこそ、私たちは本当に必要なものを見極め、必要な物を必要な分だけ手に取ることの重要性を改めて見直す時期にきているのかもしれません。
参考
令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第3章 プラスチックを取り巻く状況と資源循環体制の構築に向けて(環境省)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/html/hj19010301.html
もっと先の未来を考えるエコ・マガジン「ecojin」 ecojin’s EYE 海洋プラスチックごみ(環境省)
https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230705.html
Plastics Smart 【ハンドブック】ごみ拾いから始める海洋プラスチックごみ問題の解決(環境省)
https://plastics-smart.env.go.jp/education?education=107
インフォビジュアル研究所.図解でわかる 14歳からのプラスチックと環境問題.太田出版,2019,42p