メールマガジン「Nutrition News」 Vol.249 2024年8月1日発行
「Brain-gut axisに着目した腸内細菌叢異常に伴う脳卒中発症メカニズムの解明」
国立循環器病研究センター 認知症先制医療開発部 特任部長・脳神経内科医長
服部 頼都
【要旨】
近年、循環器疾患の発症において腸内細菌叢の変容および腸内細菌が介在する代謝産物が関連することが明らかになっている。本研究では脳卒中の新規バイオマーカーを創出することを目的に、脳卒中における口腔・腸内細菌叢の解析を実施した。2020年7月から2021年12月までの期間、国立循環器病研究センターに急性期脳卒中の診断で入院、研究同意を得た198名の患者、および同期間に健診コホートにて研究同意を得た60名の非脳卒中高齢者を対象に唾液・便を採取し、口腔・腸内細菌叢解析を実施した。研究同意を得たうち151名の脳卒中患者および53名の非脳卒中対象者より唾液を、109名の脳卒中患者および51名の非脳卒中対象者より便を採取し16SリボソーマルRNAメタゲノム解析を実施した。脳卒中患者では非脳卒中対象者と比較して腸内細菌叢のアルファ多様性が低下していた。さらに、脳卒中患者では非脳卒中患者と比較して、口腔内と腸内の細菌叢が類似する方向に変容したことが分かり、マイクロバイオーム組成解析において、脳卒中患者において口腔内・腸内細菌叢のいずれにおいてもStreptococcus anginosus が増加することが分かった。さらに、部分最小二乗判別分析において、脳卒中患者では、Streptococcus anginosus の腸内定着が特徴的な腸内細菌叢変容に関与したことが分かった。本研究の結果、脳卒中患者では、口腔内の常在細菌の一つであるStreptococcus anginosus が、腸内細菌叢内で定着することが分かった。細菌叢解析において明らかになった「口―腸連関」が、宿主であるヒトの生活習慣病・脳卒中発症に影響を及ぼすことが明らかとなった。