2024/08/01

Vol.249 (3) 健康・栄養に関する学術情報 「小児アレルギー ー腸内細菌と栄養の視点からー」

メールマガジン「Nutrition News」Vol.249  2024年8月1日発行
健康・栄養に関する学術情報
「小児アレルギー ー腸内細菌と栄養の視点からー」


ヒトの腸内細菌叢は、出生後から乳幼児期にかけてダイナミックに変化し、3歳までに安定するといわれています。乳幼児期に形成される腸内細菌叢は、アレルギー疾患も含めてヒトの健康・疾病に大きくかかわっており、その乱れは短期的・長期的な影響を健康状態に及ぼす可能性があります。アレルギー疾患の近年の増加傾向は著しく、社会的に大きな課題となっています。

千葉大学の下条直樹特任教授による総説「小児の腸内細菌叢とアレルギー」で、最新の知見が集約されています。アレルギー疾患の発症には、遺伝的因子のみでなく環境因子が大きく関与しており、腸内細菌はその一つとして注目されてきました。腸内細菌が産生する物質の中でも特に注目度の高い短鎖脂肪酸(主に酢酸、プロピオン酸、酪酸)と、栄養法の観点ではビタミンDについての研究を取り上げて紹介します。

アレルギー疾患における腸内細菌叢:短鎖脂肪酸

筆者らを含む内外の研究において、喘息発症群児童においてある種の糞便中の短鎖脂肪酸量が少ないことや、ある種の腸内細菌の存在量が少ないことが報告されている。また、動物実験でも短鎖脂肪酸投与がアレルギー発症を抑制するとの知見が報告されている。これらのことより、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が制御性T細胞(免疫細胞の一種)を誘導してアレルギー発症を予防するという仮説が提唱されている。

栄養法:ビタミンDの影響

母乳中にはヒトミルクオリゴ糖が含まれており、乳児のビフィズス菌の増殖に役立っている。一般的には母乳栄養がアレルギーに予防的に働くとして推奨されている。一方で、我が国の複数の出生コホートで、完全母乳栄養がアトピー性皮膚炎や食物アレルギー・アレルゲン感作の促進因子であることが報告されている(1, 2)。

母乳栄養児と混合栄養児の腸内ビフィズス菌の占有率の比較を行った研究で、混合栄養児の方が母乳栄養児に比較して、腸内のビフィズス菌の占有率が高いという結果が示された(3)。市販の調製粉乳に含まれるオリゴ糖による効果かもしれないが、最近のライフスタイルによる母乳成分の変化による可能性もある。

母乳は乳児にとって最も適切な栄養源であるが、ビタミンDの濃度が非常に低いことが知られている。筆者らは、母乳栄養での感作促進の原因の一つとしてビタミンDを考えた。

  • 母体血、臍帯血、1歳時で血清中のビタミンDを測定したところ、妊娠36週の妊婦ではおおよそ90%で、また1歳児の約半数が20ng/mL以下であり、ビタミンD欠乏であった。4か月までの完全母乳栄養児は混合栄養児に比して1歳でのビタミンDが低かった。血中ビタミンD濃度で20ng/mL以下とそれ以上の2群に分けると、前者で卵白感作率が高かった。アトピー性皮膚炎の発症には関連が認められなかった。

さらに、ビタミンDとアレルギーの関連を確認するために開始した介入研究で、対照群と比してビタミンD摂取群では、6か月での卵白感作、12か月での食物アレルギーの発症がそれぞれ1/2、1/3に低下していた。

  • 日本での1989年と2016/17年の母乳中のビタミンDを比較した報告では、最近の母乳では以前の母乳に比較してビタミンD濃度が低下していた(4)ことからも、乳児のビタミンD摂取量の低下がアレルギー疾患の増加に関連している可能性がある。

結び

著者は、「プロバイオティクスなどでは、出産後の介入に効果はなく、妊娠中からの介入の有効性が報告されている。食品・栄養素が腸内細菌叢に与える作用についての解析が今後望まれる。」と述べています。

小児アレルギーは対応が困難です。原因に未解明な点が多く、患者も保護者も忍耐を強いられます。当財団にも多くの質問が寄せられたため、本トピックを掲載しました。改善の光が差し込むよう、研究の進展を待ちたいですね。



引用文献

(1) Nakano T, et al. Breastfeeding promotes egg white sensitization in early infancy. Pediatr Allergy Immunol. 2020; 31: 315–318.

(2) 渋谷紀子ほか.出生コホートによる乳児期早期の湿疹と感作およびアレルギー疾患発症についての検討.アレルギー.2013; 62: 1598–1610.

(3) Nagpal R, et al. Evolution of gut Bifidobacterium population in healthy Japanese infants over the first three years of life: a quantitative assessment. Sci Rep. 2017; 7: 10097.

(4) Tsugawa N, et al. Comparison of Vitamin D and 25-Hydroxyvitamin D Concentrations in Human Breast Milk between 1989 and 2016–2017. Nutrients. 2021; 13: 573.

(参考)

詳細は下記論文をご参照下さい。

下条直樹. 小児の腸内細菌叢とアレルギー. 腸内細菌学雑誌 2023; 37: 187-198.

本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/37/4/37_187/_pdf/-char/ja



ダノンジャパン株式会社 研究開発部 西田 聡

一覧へ戻る