メールマガジン「Nutrition News」 Vol.248 2024年7月1日発行
「周産期栄養環境が児の体質獲得に及ぼす機構の解明」
国立成育医療研究センター研究所 周産期病態研究部
河合 智子
【要旨】
周産期環境と成人期の疾患発症リスクに関連があることが疫学的に認められている。我々は、受精前、妊娠中、授乳中、と広く周産期の母親の栄養状態が児の将来の疾病発症に関与する可能性をエピゲノムの観点から解明することを目的としている。先行研究より、non-coding 遺伝子nc886のDNAメチル化状態が母親の栄養状態のマーカーとして児の血液細胞で検出できる可能性、並びに、出生時のnc886のDNAメチル化状態が将来の体型や代謝機能と関連している可能性が示唆されている。そこで本研究では、我々の施設でリクルートした母子コホートを対象に、これらの先行研究の結果を検証するとともに、関連する新たな環境因子の有無を検証した。その結果、児のnc886は妊娠時の年齢があがると非メチル化する割合が高くなる結果が得られた。しかし、この結果と一致する先行研究と相反する先行研究が報告されており、結論を出すに至らなかった。妊娠前のBMIや出産歴は関連していなかった。nc886はインプリント遺伝子であり、ヒトでしかDNAメチル化制御による片親性発現が認められておらず、DNAメチル化修飾確立や維持の機構が不明である。これらを解明することが、児のnc886のDNAメチル化状態が周産期の栄養状態のマーカーとして有用であるかを結論付けると考える。