2024年7月1日発行
メールマガジン「Nutrition News」 Vol.248
「大人だけの問題ではない!子どもの『高血圧』を考える」
高血圧は、成人だけでなく小児にもみられる疾患であり、わが国では健常な小中学生の約0.1~3%が高血圧に該当すると推定されています。年齢が低い場合などには他の疾患に起因する“二次性高血圧”が疑われることもありますが、小児においても成人と同様、ほとんどの場合が原因の不明な“本態性高血圧”であるといわれています。
子どもの高血圧の問題点とは?
小児の本態性高血圧も成人同様に肥満との関連が強く、肥満度が増すほど高血圧の有病率も高くなることが明らかになっており、その原因として内臓脂肪の蓄積によってインスリン抵抗性が高まることや、脂肪細胞から分泌されるレプチンが作用することなどが考えられています。
小児期に高血圧であることの問題点として、臓器障害などの合併症や、成人本態性高血圧への移行が挙げられます。中学時代の血圧と20年後の血圧を比較した日本の研究では、中学時代に正常血圧で20年後に高血圧となった人の割合が5.5%であったのに対し、中学時代に高血圧であった人が20年後も高血圧であった割合は20.9%と高くなっています。また、5歳から14歳までの1,505人を15年以上追跡した海外の研究においても、小児期の高血圧が成人後の高血圧に移行する割合が高いことが示されています。合併症や成人本態性高血圧への移行を防ぐためにも、早期の対策が必要といえるでしょう。
血圧測定の難しさ
高血圧の診断には、正確な血圧測定が必要不可欠です。しかし、成人と比較して、小児では血圧測定の機会は多くありません。学校保健安全法に基づく健康診断の検査項目にも、血圧は含まれていません。その背景には、体格によって適切なサイズのカフ(腕に巻く帯)を選択しなければ正確な血圧を測定できないことや、測定時に緊張したり泣いたりしやすいことなど、小児の血圧測定が成人と比較して困難であることが挙げられます。しかしながら、高血圧の早期発見や一次予防の観点からも小児の血圧測定は重要であり、小児を対象とした健診における血圧測定の必要性も指摘されています。
なお、高血圧の基準値は成人と小児とでは異なります。血圧は体格や年齢などの影響を受けることから、小児の場合は年代別・性別によって異なる基準が用いられており、高血圧の診断には3回以上の異なる機会での血圧測定で基準値を超えることが必要とされています。
表1 小児の高血圧の基準
子どものころから“減塩”を!
小児期からの健康的な生活習慣が健やかな成長のために重要なのはいうまでもありません。特に、肥満のある子どもでは、適切なエネルギー摂取や栄養バランスのよい食事を心がけるとともに、“早食い”や“丸飲み”等、肥満につながる食べ方を是正することが大切です。
また、小児においても食塩の過剰摂取は血圧の上昇につながると考えられています。うま味や酸味などを利用して薄味に親しむことや、カリウムを多く含む野菜を積極的に摂取すること、栄養成分表示を確認することなど、小児の段階から減塩を習慣化できるような食教育が広く浸透することが求められています。
表2 1日あたりのナトリウム(食塩相当量)の目標量
参考
高血圧治療ガイドライン2019「第11章 小児の高血圧」(日本高血圧学会)
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf
内田 敬子.わが国における小児の血圧測定.慶應保健研究. 2018,36( 1),067-072
https://www.hcc.keio.ac.jp/ja/research/asetts/files/36-10.pdf