2024/06/03

Vol.247 (3) 健康・栄養に関する学術情報 「筋肉と腸のクロストーク、筋腸連関」

骨格筋は、血中の糖と脂質を取り込みエネルギー産生をする代謝臓器であり、腸は栄養素を吸収する臓器であることが知られていますが、それだけに留まらず、骨格筋と腸が連係プレーをしているというのです。意外ですよね、どういうことなのでしょうか?

京都府立大学の青井渉准教授による総説「骨格筋と腸のクロストーク“筋腸連関”からみる代謝,運動の機能制御」から、筋腸連関についての総説を紹介します。

骨格筋の分泌機能

骨格筋は生理活性を有するタンパク質“マイオカイン”を産生する分泌臓器として認識されるようになった。マイオカインには、筋収縮によって分泌が促進されるものと、不活動や加齢、高脂肪食によって分泌が低下するものや、逆に分泌が高まるものもある。運動によって分泌される典型的なマイオカインであるインターロイキン(Interleukin-6;IL-6)は、糖質や脂質の代謝に寄与する。

マイオカインによる腸への影響

腸は免疫細胞の多くが集積する免疫機能と密接に関連する臓器である。運動による一過性・中程度レベルのIL-6などの上昇は好中球に作用し、抗炎症性因子の産生を高め、またリンパ球やNatural killer細胞の増殖や組織浸潤を促進し、腸の免疫機能に影響する。
また、運動習慣が大腸発がんリスクを低減することが示されている。身体活動によって予防が期待できるがんとして、大腸がん、乳がん、子宮がん、食道がん、肺がん、肝臓がんが上げられる。中でも、大腸(特に結腸)の発がんリスクを減らすためには、身体活動が効果的だとされる。

  • 筆者らは、マトリックス細胞タンパク質ファミリーの一種Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine(SPARC)が運動によって増加し、加齢によって減少するマイオカインであることを報告した。
  • 野生型マウスにおいては、習慣的な運動によって、大腸上皮におけるAberrant crypt foci(大腸がんの前がん病変)形成の抑制がみられたが、SPARC欠損マウスではこの運動効果が認められなかった。
  • 大腸発がんモデルマウス、培養細胞において、SPARCが濃度依存的に前がん病変あるいはがん細胞増殖を直接抑制する。
  • SPARCを含むいくつかのマイオカインは、骨格筋をはじめとする臓器のインスリン感受性を高める(インスリンは細胞増殖シグナルを活性化するためがん細胞を増殖する因子としても知られ、インスリン抵抗性を呈する2型糖尿病患者は大腸がんの罹患リスクが高い)。

マイオカインは大腸がん予防に寄与すると考えられる。

腸バリア機能と骨格筋代謝

腸は栄養素を消化・吸収する一方、バリア機能を持ち異物の進入を制御することで、生体防御の役割を担う。腸管上皮細胞間の密着結合(タイトジャンクション)は、細菌、エンドトキシン、抗原等の侵入を防ぐバリアとして働くが、腸管バリア機能の低下が起こると、それらは血中へ侵入し、炎症応答を惹起する。

  • 骨格筋のインスリン感受性やミトコンドリア活性を低下させる等、筋機能を減弱することが腸管透過性亢進モデルマウスにおいて観察されている。
  • 加齢や悪液質(栄養不良により衰弱した状態)に伴う骨格筋減弱にも、腸バリア機能の低下が関与することが示唆されている。
  • Dysbiosis(腸内細菌叢の乱れ)に由来するLipopolysaccharide(LPS)やインドキシル硫酸が、タンパク質分解シグナルを活性化し、筋萎縮を促進する。

腸バリアの維持は、血糖値、体脂肪量、筋量等を調整することで、メタボリック症候群やフレイルの予防に寄与する。

スポーツ領域において、運動中は骨格筋の血流が増加し、代償的に腸の血流は減少する。運動後は血流が回復することにより、酸素分圧が急激に上昇する。このような虚血・再灌流様刺激によりキサンチンオキシダーゼ活性が高まり、活性酸素種の産生を誘発するため、強度の高い運動はタイトジャンクションを障害しバリア機能を破綻させる。

  • バリア機能が破綻すると血中へ漏出したLPS等の腸由来因子が骨格筋へ作用し、炎症応答を介した代謝能の減弱につながる
  • 腸管透過性の亢進したマウスでは、血液中LPS濃度が上昇する。
  • 高強度のトレーニングを行うスポーツ競技者においても、LPSやその結合タンパク質の血液中濃度が高まる。
  • 疲労を軽減し、持久運動能を維持する目的で、腸機能に焦点をあてた身体コンディショニングは有用である。

腸内細菌に由来する代謝調節因子

腸内細菌に由来する代謝物が、血液を介してエネルギー代謝やタンパク質代謝を制御する。

  • 短鎖脂肪酸は、骨格筋に直接あるいは間接的に作用し、抗炎症や代謝改善に寄与する。
  • 運動によって生じた乳酸の一部は、腸内細菌(Veillonella属等)によってプロピオン酸に代謝され、筋の持久力を支持する。
  • 腐敗産物、LPS、炎症性因子の産生に関わる腸内細菌は、腸内環境を攪乱し、タイトジャンクションの障害、ひいては炎症応答や代謝障害につながる。
  • プレバイオティクスやプロバイオティクスの摂取により腸内細菌叢が改善することが報告されている。スポーツ時の疲労、肥満や代謝疾患、サルコペニア等、様々なライフステージの課題においてプレバイオティクスやプロバイオティクスの介入が試みられており、骨格筋機能を標的とした新しい栄養戦略として興味深い。

筆者は、健全な腸機能を維持することは、骨格筋の代謝を制御し、疾患やフレイルの予防に寄与するとともに運動機能の維持・向上において重要である、と述べています。

筋肉と腸の双方が高度な連係プレーをしている様子が明らかになって来ています。それぞれが単独プレーをしているのではないのですね。どこかに意思が働いているような見事な連係に驚かされます。さて、筋肉と腸の連係プレーに支えてもらっていますが、私たち自身も運動習慣や食習慣を改善することで、連係に加わることができます。筋トレや腸活を連係プレーとしてやってみるのもいいですね。

ダノンジャパン株式会社 研究開発部 西田 聡

参考

詳細は下記論文をご参照下さい。
青井 渉. 骨格筋と腸のクロストーク“筋腸連関”からみる代謝,運動の機能制御. 日本栄養・食糧学会誌 2023 76巻 第5号 p305‒312.

本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_305/_pdf/-char/en

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