メールマガジン「Nutrition News」 Vol.246 2024年5月1日発行
2021年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
視線計測装置と実験心理学的手法による高齢者の栄養情報処理の解明
東京大学 / 宮城大学
元木 康介 先生
要旨
栄養情報を正確に処理する能力は、健康的な食生活を送るために必要である。低栄養状態は、多くの生活習慣病と関連しており、特に高齢者で問題になっている。高齢者の低栄養状態は、不十分な栄養情報処理に起因している可能性がある。栄養情報処理とは、食品に含まれている栄養情報(カロリー等)を素早く正確に判断する能力である。したがって、高齢者の健康的な生活を支えるためには、高齢者の栄養情報処理を理解することが重要である。本研究では、高齢者の栄養情報処理を明らかにするために、心理学実験と視線計測実験を行った。心理学実験の結果、高齢者のカロリー推定精度は、若年者よりも低下していることが明らかになった。しかし、その高齢者と若年者におけるカロリー推定精度の差は、食品画像数が1つ、あるいは4個以上提示された際には見られなかった。また、視線計測実験の結果、高齢者の視線情報処理の特徴が明らかとなった。栄養ラベルが数値表示の条件では、高齢者はほとんど栄養情報に注意を向けていなかった。ただし、その中でもカロリー情報には注視している傾向があった。脂質・炭水化物・食塩相当量については、注視する傾向がほとんど見られなかった。一方で、高齢者は栄養ラベルがNutri-scoreデザインの条件では、栄養情報に注視する傾向が観察された。その中でも特に、その食品が保持しているNutri-score(例:その食品のNutri-scoreがEならEの箇所)がより注視されることが示唆された。