健康・栄養に関する学術情報
運動持久力は腸内細菌によっても向上する!
マラソンや駅伝などの長距離走競技においては、持久力の高低が競技成績に大きく影響します。持久力を高めるにはトレーニング法だけではなく、普段の食事や競技前の食事の内容・摂り方などが研究されてきました。最近の研究で、腸内細菌が運動持久力に関与している可能性があることが明らかとなってきました。今回は運動持久力に関与する腸内細菌の発見、および推定されるメカニズムについて報告した論文を紹介します。
(内容)
大学駅伝部の男子ランナーの腸内細菌を調べたところ、同年代の一般男性たちに比べ腸内細菌の1種であるBacteroides uniformis(バクテロイデス ユニフォルミス、以下B. uniformis)菌数が多かった。また、ランナー25人の3000メートル走のタイムとこの菌の数との関係を調べると、B. uniformisの菌数が多い人ほどタイムが速かった。
次に腸内でこの菌を増やすことの効果を確かめた。日常的に運動している成人男性36名にこの菌が利用できるα-サイクロデキストリン(オリゴ糖の一種)を与え10km自転車走(室内)の記録を比較した。その結果、腸内でB. uniformisの菌数は増加し、自転車走の記録は摂取前より約10%短くなり、摂取しなかったグループと比べても速いタイムであった。
そのメカニズムを探るべく、マウスにα-サイクロデキストリンを与えたところ、 腸内のB. uniformis菌数が増加するとともに遊泳試験で泳げる限界の時間が長くなった。また、腸内細菌代謝産物である短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸)の盲腸内での濃度が高かった。更に肝臓中での遺伝子発現を調べた結果、脂肪酸を分解するβ酸化関連遺伝子やブドウ糖を作り出す糖新生関連遺伝子発現が高かった。
これらのことから
→α-サイクロデキストリンを摂取すると、腸管内でB. uniformisの菌数が増え、
→腸管内での短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸)が増え、
→吸収された短鎖脂肪酸が肝臓内でエネルギー源であるブドウ糖を作り出す遺伝子の働きを高め、
→持久力が高まる
というシナリオが推定されるとしている。
(参考)
詳細は下記論文をご参照下さい。
Hiroto Morita, Chie Kano, Chiharu Ishii, Noriko Nagata, Takamasa Ishikawa, Akiyoshi Hirayama, Yoshihide Uchiyama, Susumu Hara, Teppei Nakamura and Shinji Fukuda
Bacteroides uniformis and its preferred substrate, α-cyclodextrin, enhance endurance exercise performance in mice and human males
SCIENCE ADVANCES Vol 9, Issue 4 DOI: 10.1126/sciadv.add2120 (2023)
本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://www.science.org/doi/full/10.1126/sciadv.add2120