2023/12/01

Vol.241 (3) 健康・栄養に関する学術情報 「妊婦のビタミンD栄養状態 ー欠乏状態の予測が可能にー」

 

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.241
健康・栄養に関する学術情報
妊婦のビタミンD栄養状態 ー欠乏状態の予測が可能にー

1980年代の南極オゾンホールの発見以降、太陽からの紫外線が危惧されるようになりました。浴びすぎると肌や目に悪影響がありますが、皮膚でビタミンDを生成するという良い働きもあります。日本の若年女性の間では、肌の美容を重視して紫外線を避ける風潮が広がり、その結果若年女性を中心にビタミンD不足や欠乏が広がってきています。また、日本人の妊婦は諸外国に比べ著しくビタミンD欠乏にあるとも報告されています。

国立環境研究所と順天堂大学の研究チームから、日本人の妊婦のビタミンD不足の状態を把握し、要因を推定、ビタミンD欠乏推定モデルを構築した研究が公表されました。2023年2月発表の最新報告を紹介します。

背景と目的

体内のビタミンD(以下VD)は食事から摂取されたVDと太陽紫外線(以下UV-B)照射により皮膚で生成されたVDに由来する。食事摂取目安量は1日8.5 μgが示されているが、UV-B照射による皮膚でのVD生成量には、季節、緯度、天候、時間、肌の色など様々な要因が関連しており、環境省、日本ビタミン学会、骨粗しょう症財団等の組織も単一の目安となる日光照射時間は示されていなかった。本研究では、日本人妊婦において食品からのVD摂取やUV-B暴露状態などを把握して、要因を推定し、VD欠乏推定モデルを構築した。

研究手法

        • 2018年8月から2019年10月の間に受診した、妊娠28週の309人の妊婦を対象とし、体内のVD栄養状態を反映する血中25-水酸化ビタミンD(25(OH)D)濃度を測定した。
        • 簡易型自記式食事歴法質問票によるアンケートを実施し、食事からのVD摂取量を推定した。
        • 対象者の過去3日間と平均的な平日及び休日の外出記録を肌の露出状態や日焼け止めクリーム使用の有無などを含めてアンケート形式で調査し、採血日から2週間前までに遡った日々の皮膚でのVD生成量をこれまでに筆者らが開発した計算式により推定した。
        • 必要なデータを満たした268人を解析対象とした。

    研究結果と考察

    • 食物からのVD摂取量の平均が9.0 μg/day、UV-BによるVD生成量の平均が15.2 μg/day、その合計は24.2 μg/dayとなり、米国やカナダの1日のVD摂取量の推奨値である15.0 μg/dayを上回った。
    • それにもかかわらず 、VD栄養状態の目安となる血中25(OH)D濃度の平均は11.4 ng/mLであり、VD欠乏状態だった(VD充足:> 30 ng/mL、VD不足:20-30 ng/mL、VD欠乏:10-20 ng/mL、VD極度の欠乏:< 10 ng/mL)。
    • 血中25(OH)D濃度と有意な相関関係を示したのは、食事からのVD摂取量とUV-BによるVD生成量だった。年齢、妊娠前BMI値、妊娠期間中体重増加量には有意な相関関係はなかった。

    また、UV-B強度とVD生成量との関係を調べた。実際のUV-B強度観測データをもとに、次のように1年を3つの期間に分けた。
      強UV-B月:5月、6月、8月、9月
      中UV-B月:4月、7月、10月
      弱UV-B月:1月、2月、3月、11月、12月

    • UV-BによるVD生成量には、明らかにUV-B強度の違いが現れた。強UV-B月のVD生成量の平均値が3 μg/dayであるのに対し、中UV-B月は17.6 μg/day、弱UV-B月は8.5 μg/dayにまで減少した。
    • すべての季節において、妊婦VD栄養状態の目安となる血中25(OH)D濃度は10~12 ng/mLという、ビタミンD欠乏状態を示した
    • 食事からのVD摂取量にはすべてのUV-B強度の月において25(OH)Dと相関が見られ、特に中UV-B月と弱UV-B月には統計的に有意な強い相関関係が見られた。
    • UV-BからのVD生成量に関しては、強UV-B月のみに強い相関関係が見られた。一方、中UV-B月や弱UV-B月には25(OH)Dとの相関は見られなかった。
    • これらの結果をもとに、妊婦の血中VD濃度を推定するロジスティック回帰モデルを構築した。VD欠乏状態となっている妊婦のうちの88%を予測することに成功した。

      今後の展望

      妊婦の多くは、推奨量以上のVDを食事やUV-B照射によって取り込んでいると推定されているにもかかわらず、血中VD濃度は全季節を通して欠乏状態であることが明らかになった。その原因として、妊婦においては摂取したVDの多くが胎児の骨の生成に消費されている可能性が考えられる。本結果で得られたロジスティック回帰モデルをもとに、妊婦にVD欠乏状況について情報提供することにより、妊婦のVD栄養状況が改善されることが期待される。また今後調査対象を、妊婦以外の女性や赤ちゃんにも広げていく。


      お母さんがおなかにいる赤ちゃんのために一生懸命ビタミンDを届けてあげて、赤ちゃんの成長を支えているのですね。お母さんにビタミンDを十分供給するために、食べ物と皮膚に日光を浴びることが大切です。手のひらのような日焼けが気にならない場所を日に当てるといった工夫もいいかも知れません。お日さまの恵を受けて、お母さんと赤ちゃんが健やかでいられるといいですね。

       

      (参考)

      詳細は下記論文をご参照下さい。

      Nakajima H, Sakamoto Y, Honda Y, Sasaki T, Igeta Y, Ogishima D, Matsuoka S, Kim SG, Ishijima M, Miyagawa K. Estimation of the vitamin D (VD) status of pregnant Japanese women based on food intake and VD synthesis by solar UV-B radiation using a questionnaire and UV-B observations. J Steroid Biochem Mol Biol. 2023 May;229:106272. doi: 10.1016/j.jsbmb.2023.106272. Epub 2023 Feb 10. PMID: 36775044.

      本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。

      https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960076023000274?via%3Dihub

       

      ダノンジャパン株式会社 研究開発部 西田 聡

       

       

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