メールマガジン「Nutrition News」 Vol.235
2020年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
必須アミノ酸による記憶制御機構の解明と記憶障害改善への応用
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
2020年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
必須アミノ酸による記憶制御機構の解明と記憶障害改善への応用
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
喜田 聡 先生
要旨
必須アミノ酸ヒスチジンとトリプトファンはそれぞれ神経伝達物質ヒスタミンとセロトニンの前駆体であり、その摂取量は神経伝達物質の生成量に反映される。一方、我々のグループでは、cAMP情報伝達の活性化が記憶形成と想起の両方を促進する分子機構を明らかにした。そこで、本研究課題では、その前駆体がヒスチジンであるヒスタミンにはcAMP産生によりcAMP情報伝達経路の活性化を導くGタンパク質共役型受容体が存在することに着目して、ヒスチジンに記憶増強効果があるのではないかと考え、記憶形成と想起に対するヒスチジンの効果とその作用機構を解明することを試みた。さらに、これらの必須アミノ酸を用いて、認知症の症状改善、また、加齢に伴う記憶障害の簡便な改善効果を検討した。海馬依存的な社会的認知記憶課題とモリス水迷路課題において、ヒスチジン腹腔内投与により社会的認知記憶と空間記憶形成の向上が観察された。また、ヒスチジン経口投与によっても社会的認知記憶の向上が観察された。これに対して、このヒスチジンの記憶増強効果は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬の同時投与によって解消された。一方、ヒスチジン腹腔内投与により社会的認知記憶の想起の向上も観察された。以上の結果から、ヒスチジンは記憶形成と想起をそれぞれ向上させることが明らかにされ、ヒスチジン投与により簡便に記憶能力を改善できる可能性が示された。