2023/04/17

Vol.233 (2) 2020年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告 「インドネシア共和国東ジャワ州マラン県の中学校における学校給食プログラムに対する保護者の支払い意志額の推定」「食事の腸管内通過が腸内細菌叢および腸管免疫系に与える影響の解明」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.233
2019年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
インドネシア共和国東ジャワ州マラン県の中学校における学校給食プログラムに対する保護者の支払い意志額の推定
筑波大学 人間総合科学研究科 

イスハク ハリム オクタウィジャヤ 先生

要旨

背景・目的インドネシアの学校給食プログラムのために割り当てられる政府の予算が限られているため、学校給食プログラムが全国的に確立されていなかった。学校給食プログラムの自己負担の可能性を検討するには、学校給食プログラムを使用する保護者の意志と、これらのプログラムに対する支払いの意志額(Willingness to payWTP)を調べた。

 対象・方法 2021 年 1 月から 3 月にかけて、インドネシアの東ジャワ州マラン県のケパンジェン郡の公立中学校 5 校すべての中学生の保護者を対象に、オンラインアンケート調査を実施した。仮想的な学校給食に対する保護者のWTPを引き出すために、仮想評価法用いた。WTPをもとに学校給食の価格弾力性を算出し、学校給食の価格と需要の関係を調べた。WTPに関連する要因は、ロジスティック回帰分析を行った。

 結果940 人の参加者のうち、90% は学校給食プログラムを利用する意志があり、30% 1食あたりRp 15,000  USD 1.05) 以上を支払う意志があった。また、22% が学校での食事は家庭での食事よりも健康的であると認識していた。学校給食に対する保護者の需要は、弾力性がなかった。944 人の生徒(参加者の子ども)のうち、2 人を除く全員が学校で食事または軽食をとり、74% 1日に3回以上食事をとっていた。学校給食のWTPが高いほど、学校での食事の頻度、家庭の収入が高く、学校での食事に対するより良い認識と関連していた。一方、WTPが低いほど、世帯構成人数が多かった。

考察ほとんどの保護者は、学校給食の価格に関係なく、一定のWTPで学校給食プログラムを利用する意志を示した。したがって、インドネシアの学校給食は自己負担によって拡大される可能性がある。

 

 

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.233
2020年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
食事の腸管内通過が腸内細菌叢および腸管免疫系に与える影響の解明
大阪大学大学院 医学系研究科 消化器外科学 

荻野 崇之 先生

要旨

 腸内細菌叢が粘膜バリアの恒常性維持や腸管炎症に重要な役割を果たすことは動物実験により示されてきたが、ヒト腸内細菌叢に関する研究は未だ発展途上である。本研究では人工肛門造設による便流変更を施行された患者を対象に、食事の腸管内通過が腸内細菌叢および腸管免疫系に与える影響の解明を目的とした。

健常な空置回腸では、使用回腸と比較して細菌量および種の多様性が有意に減少していた。空置回腸の上皮では、使用回腸と比べて陰窩のKi-67+細胞数が減少し、絨毛長が短くなっており、杯細胞数も減少していた。粘膜免疫に関して、フローサイトメトリー解析では空置回腸の抗体産生細胞ではIgA+細胞の割合が減少し、CD4+細胞分ではIFN-γ+細胞とIL-17+細胞の割合および細胞数も有意に減少していた。人工肛門閉鎖後は、空置回腸の減少した絨毛長や杯細胞、IFN-γ+細胞、IL-17+細胞が増加しており、表現型の変化は可逆的であった。クローン病患者の空置回腸でもIFN-γ+細胞とIL-17+細胞の割合および細胞数が有意に減少していた。以上より、ヒト回腸において、人工肛門造設による便流変更は腸内細菌を減少し、粘膜バリアの表現型を変化させており、クローン病回腸では便流変更が粘膜固有層の炎症細胞を抑制していた。

*人工肛門造設による便流変更術は肛門側腸管に細菌を含む腸内容物が通過するのを回避する。大腸外科手術において、術後合併症のリスクを低減するため、一時的回腸人工肛門造設術を同時に併行することがあり、多くは術後1-6ヶ月に合併症がないことを確認し、閉鎖術が行われる。人工肛門部位より口側腸管および肛門側腸管も10-20cm程度含めて切除される。本研究では腸内容物が通過する口側腸管を「使用腸管」、腸内容物が流れない肛門側腸管を「空置腸管」と定義した。

 

 

 

 

 

 

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