第24回ダノン健康栄養フォーラムより
人と地球の健康を支える管理栄養士・栄養士(後編)座長: 神奈川県立保健福祉大学 学長 中村 丁次
パネリスト:兵庫県 保健医療部 健康増進課 諸岡 歩
東京農業大学 副学長 / 「食と農」の博物館 館長 上岡 美保
京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 畜産資源学分野 教授 廣岡 博之
宮城大学 食産業学群 教授 石川 伸一
メールマガジン「Nutrition News」vol.230に続き、パネルディスカッション「人と地球の健康を支える管理栄養士・栄養士」の後半の内容をご紹介します。
中村先生:
今日は2つのテーマについて議論したいと思います。1つめは、“人の健康”と“地球の健康”のバランスについてです。健康な食事が環境にもよく、環境にやさしい食事が健康にもよいならば問題はないと思いますが、時にこれらがどちらかに偏ってしまうことがあります。視聴者からも「食事指導や保健指導の際、“残す勇気”と“残すのはもったいないという気持ち”のはざまでいつも葛藤しています。対象者にも地球環境にもよいアプローチの方法はありますか?」という質問をいただいています。
上岡先生:
まず個人の責任として、「自分の量を知る」ということが大切であり、管理栄養士・栄養士の指導が必要なのではないかと思います。また、食べ物を残す理由も様々だと思いますが、食べず嫌いで残すことはよいことではないと思いますので、色々な食や味の経験を促すということも管理栄養士・栄養士にお願いしたいところです。また、地球環境の観点からも、消費者一人一人が現状を知ることが大事です。食品ロスの大きな原因は“生産と消費の距離の乖離”にあり、その点についてもご指導いただきたいと思っています。
諸岡先生:
残すことが悪いことだと思うのではなく、残した食品を次の食事にどう活かしていくかを考えることも重要だと思います。残した食品をリメイクし、次のステップに活かすという“発想の転換”が必要なのではないでしょうか。また、食材がどこから来て、どのような方が関わってきたのかというところについて、管理栄養士・栄養士は、様々な職種の方と連携しながら丁寧に伝えていく必要があるのではないかと思っています。
中村先生:
もう1つのテーマは“たんぱく質をどう摂取していくのか”という問題です。畜産の意義や過度に動物性食品を排除することに対する問題点などについてお話しいただけますでしょうか。
廣岡先生:
近年、欧米を中心に極端に畜産物を減らすべきとする意見の方が増えている一方で、開発途上国などでは豊かになるにつれて畜産物の消費が増えています。そのような中で、日本のような、海産物も含めて広く食べるという食べ方は重要なのではないかと思います。たんぱく質にしてもエネルギーにしても、色々な食べ物から摂ることが大事であり、畜産物を排除することによるマイナス面まで考慮して議論すべきではないかと思います。
石川先生:
私の講演の中では新しいたんぱく質の話もしましたが、結論的には廣岡先生のご意見と同じです。個人の思想や価値観によって選択できるというのは理想的な形だと思います。新しいたんぱく質源にどのような栄養的な価値があるかというところの説明については、ぜひ管理栄養士・栄養士のみなさんにお願いしたいと思っています。
中村先生:
最後に、ご自身の専門性の立場から管理栄養士・栄養士に期待していることなどをお話していただければと思います。
上岡先生:
管理栄養士・栄養士は、食育の正しい情報を伝える立役者だと思います。栄養の観点からはもちろん、地産地消や農業・農村の多面的な機能などもあわせて多くの方にお伝えいただきたいと思います。
諸岡先生:
目の前にある食材や料理について、サプライチェーンも含めてしっかりと考えていただきたいと思います。また、持続可能な食生活の前提には「おいしさ」があると思います。おいしく健康に幸せであるために“よい食事”を国民のみなさんが続けられるためにできることを、一歩踏み出していただきたいと思っています。
廣岡先生:
食事は、「生きていてよかったな」という幸せを感じるものです。おいしさや幸福感、豊かさなども含めて食について考えていただきたいと思います。また、上岡先生や諸岡先生もおっしゃっていたように、生産の過程について知っていただき、それを消費者にも広く伝えていただきたいと切に思っています。
石川先生:
近年、食に関する情報があふれています。そのような中、消費者に近い存在である管理栄養士・栄養士には、生産と消費の部分も含めて、消費者にわかりやすく説明していただく役割を担っていただければと思っています。
中村先生:
どうもありがとうございました。
3年前、WHOは持続可能な健康な食事のガイドラインを発表しました。その中には、人にも地球にもやさしい食事について、食事摂取基準を守ることであると書かれています。これは、今まで私たちが考えてきた“過剰にも欠乏にもならない、栄養バランスのとれた食事”こそが地球環境にもよいのではないか、という提案だろうと思っています。そう考えると、食べすぎで肥満になることは最大のフードロスであるともいえるのではないでしょうか。管理栄養士・栄養士には、食べ過ぎを抑え、食べられない人がきちんと栄養を摂取できるようにすることが求められていると思います。そして、その過程の中に地球環境の問題、新しい技術の問題、文化の問題などの多種多様な要因を考え、総合的に食事と栄養を考慮し、目の前にいる人々に個別に対応していくことが重要なのではないかと思います。