第23回ダノン健康栄養フォーラムより
パネルディスカッション:ICTを活用した遠隔栄養指導 コロナ禍における栄養指導 ー 遠隔栄養指導への取り組み (前編)
座長: 日本栄養士会 専務理事 下浦 佳之
パネリスト:株式会社リンクアンドコミュニケーション 最高公衆衛生責任者 佐々木 由樹
那覇市立病院 医療技術部 栄養室 管理栄養士 玉城 嘉乃
下浦先生:
新型コロナウイルスの流行による生活の変化は、管理栄養士・栄養士の活躍する場にも大きな影響を与えました。対面の栄養指導が困難な現在の状況を乗り越えるためにはどうすればよいのでしょうか。また、制限の多い中だからこそできることとは何なのでしょうか。今回のディスカッションでは、“withコロナ”時代における新しい栄養指導の方法について、パネリストの先生方と考えたいと思います。
AIとオンライン面談を活用した保険指導
株式会社リンクアンドコミュニケーション 最高公衆衛生責任者 佐々木 由樹 先生
当社では、運営しているアプリの利用者データをもとに、コロナ禍における生活の変化について分析を行いました。その中で主食について、2020年1月(コロナ前)と比較して3月・4月の時点では炊き込みご飯、焼きそば、ピザ、チャーハン、お好み焼き・たこ焼きなどが増えていることが分かりました。これらの共通点として、一品で食事として成り立つ「複合的な主食」であることが考えられます。手軽に作れるというのは良いことだとは思いますが、やはりこのような食事では、たんぱく質や野菜の摂取量が不足する可能性もあります。このようなケースでは、たんぱく質源となる食材や野菜を足すことなどをアドバイスし、一品でも栄養バランスの良い食事となるようにしたいものです。
当社が開発したアプリ「カロママプラス」では、食事・運動・睡眠、気分、体重、血圧など、体の様々な情報を1つのアプリで管理することができます。また、ユーザーが食事や運動について入力すると、すぐにAIのキャラクターからアドバイスが返ってくるのも大きな特徴です。アドバイスは、“良かったところ”を思い切り褒め、さらに“次にどうしたら良いか”について、具体的に伝える内容となっています。これらのアドバイスは食事摂取基準をはじめとしたガイドラインや、一般的にエビデンスレベルが高いと言われているメタアナリシスやシステマティックレビューなどを参考にして作成しています。さらに、当社の約10万人への栄養指導の経験をもとに、対象者の行動変容を促しやすい言葉がけなどを取り入れるなど、より人に近いアドバイスができるように工夫しています。
当社では、このアプリを活用した特定保健指導も行っています。初回面談は管理栄養士と対象者がリモートで行い、その後、対象者はアプリを使用してAIからのリアルタイムアドバイスを受けます。そして週に1回、担当の管理栄養士とテキストチャットのやりとりをするという流れで継続支援を行います。指導者側は対象者の生活状況などのデータを手元で見ながら指導することができるため、より具体的なアドバイスを行うことができます。
なお、当社が行ったアンケートの結果では、保健指導の満足度は対面の保健指導の方がオンラインの保健指導にくらべてやや高く、その理由として「指導員が親身になって話しを聞いてくれた」「自分に合った方法を提案してくれた」「実行しやすい方法を提案してくれた」などの回答が多く挙げられていました。おそらく、指導者自身は対面でもオンラインでも同じように話しているはずです。もしかしたら、オンラインでは“親身な感じ”が伝わりにくいのかもしれません。より親身に、対象者のテンポに合わせて対応することなど、オンラインならではのコミュニケーションの工夫が必要と言えるでしょう。
これからの栄養指導・保健指導の1つの形として、日々のサポートなど自動でできるところはAI等に任せ、要所要所で専門職がより具体的に、より親身になってサポートするという“ハイブリッドな栄養指導・保健指導”が求められているのではないかと考えます。指導者のリソースは限られています。効率的に、持続可能な栄養指導・保健指導を実現するために、それぞれの立場で頑張っていきましょう。
情報通信機器を使用した栄養食事指導方法と経過報告
那覇市立病院 医療技術部 栄養室 管理栄養士 玉城 嘉乃 先生
2020年に診療報酬が改訂され、情報通信機器を活用した栄養指導が可能となりました。当院では、情報通信機器を用いた栄養食事指導の先行研究を参考に、電話を活用した栄養食事指導を開始しました。対象としたのは、通院が約3か月毎であり、介入期間があくことで食生活改善のモチベーション維持や行動変容の継続が難しいと感じていた糖尿病透析予防外来の患者です。
初回は管理栄養士が対面で栄養食事指導を行います。ここでは患者の問題点を抽出し、その改善に必要な目標(長期・短期)を一緒に考えます。また、対面栄養食事指導の際に電話栄養食事指導を提案します。
電話栄養食事指導は、短期目標の実施状況の確認を中心に行います。患者との会話の中で、モチベーションの維持、体重の推移や生活習慣などの確認を行い、必要に応じて目標の再設定をします。
2回目の対面栄養食事指導は、受診日に実施します。短期・長期目標の達成度を確認し、目標継続や再設定について相談し、指導します。また、必要に応じて電話栄養食事指導を継続します。
2020年6月からの1年間の電話栄養食事指導の実施件数は22件でした。患者やその家族からは、「コロナ感染予防からも電話が安心」「少し中だるみしていたから気が引き締まった」「出かけられないなど環境の変化で気分の落ち込みがあるが、医療従事者からの電話は励みになる」「本人も頑張っているから体重が1㎏減ったと言っていた」などの声が寄せられました。また、「甘い飲み物は0kcalやノンシュガーを選んでいる」「自炊をするようになり、食事のバランスを意識している」など、患者の行動や意識にも変化が見られています。
一方で、電話での会話が困難な難聴の方や、「受診時の検査結果を確認しながら指導してほしい」と受診時の指導を希望された方など、電話栄養食事指導につなげられないケースもありました。また、電話をかけても留守番電話になり折り返しの連絡もないなど、実施困難なケースもありました。
電話栄養食事指導を実際に行って感じたメリットとして、来院負担を軽減できること、調理を担当する家族への介入が可能であること、感染予防(来院不安の軽減)、インターネット環境が不要であることなどが挙げられます。しかし、食事量の把握が困難であることや、表情が見えないこと、難聴の方には介入しにくいことなどのデメリットもあります。対面やオンラインなど、他の指導法にもそれぞれメリット・デメリットがあることから、栄養食事指導の効果をより高めるためには、個人のニーズや対応できる能力に合わせて指導法を使い分けることが重要だと思います。
なお、最近では、透析通院患者への指導にも電話栄養食事指導を活用するとともに、COVID-19感染症病棟入院患者への指導に、タブレット端末を活用した“Face・to・Face”での栄養指導を開始しています。
栄養食事指導の目的は、疾患の合併症ならびに重症化の予防と考えます。来院を待つ指導は様々な背景により指導間隔があくことで行動変容やその継続が妨げられ、目的が達成しにくいことから、今後は対象者に合わせて情報通信機器の選定(電話、インターネット)も考慮しながら、計画的な指導を実施していきたいと考えています。