2022/01/14

Vol.218 (2) 第23回ダノン健康栄養フォーラムより 「コロナ禍におけるフレイル対策の実際」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.218
第23回ダノン健康栄養フォーラムより
コロナ禍におけるフレイル対策の実際
農国立長寿医療研究センター 理事長
 荒井 秀典
 

 長引く新型コロナウイルスの流行は、社会的にも多くの影響を及ぼしました。特に高齢者においては、感染を恐れての活動自粛、通いの場の閉鎖などにより自宅で過ごす時間が増え、その結果としてフレイル化が進んでいることが懸念されています。

新型コロナウイルスの感染拡大と高齢者の健康

 

 1,600名の高齢者を対象に、コロナ前(2020年1月)とコロナ流行後(20204月)における1週間の活動時間を調査したところ、コロナ前後で身体活動量が約30%低下していることが分かりました。また、対象者を「同居家族の有無」および「社会参加の有無」によって4つのグループに分けて比較したところ、「同居・社会参加あり」「同居・社会参加なし」「独居・社会参加あり」のグループでは、同年6月には活動時間が戻っているのに対し、「独居・社会参加なし」のグループでは活動時間が戻っていないことが明らかになりました。その後のフォローアップ(20208月、2021年1月)でも、他の3つのグループは活動時間が少し低下した程度であるのに対し、「独居・社会参加なし」のグループでは活動時間が少ないままで推移していることが分かりました。つまり、独居で社会参加のない方々については、約1年以上自宅に閉じこもりがちな状態が続いているということであり、フレイルや認知機能低下、要介護のハイリスクな状態になっている可能性があると考えられます。

 なお、この4つのグループについて、1年間でフレイルの新規発症があったかどうかを分析したところ、「独居・社会参加なし」のグループでは、他のグループの約2倍にあたる約3割の方がフレイルを発症していることが示されました。

 新型コロナウイルス感染症は、感染者数や死亡者数を増加させたこと自体も大きな問題ですが、同時に感染を防ぐための活動自粛が社会的な孤立を招き、身体的・精神的なストレスを蓄積させ、さらにその状態を長期化させている可能性があるという点も重要です。社会とのつながりが希薄になれば生活範囲が狭まり、それが心に影響を及ぼし、お口や栄養にも影響を及ぼして、最終的にはからだの自立に影響が出てくるということで、新型コロナウイルスの流行によってドミノ倒しのようにフレイル化が進行する可能性があると考えられます。

 公衆衛生的なアプローチによって感染拡大を防止し、死亡率を低下させることが重要なのは言うまでもありませんが、同時に高齢者においては、社会的な孤立を予防し、医療機関の適切な受診を促し、認知機能や身体機能の低下や要介護リスクの増加を抑えることが非常に重要です。

高齢者にとって重要な”たんぱく質摂取”

 NILS-LSAという長期縦断コホート研究の結果では、総エネルギー量、たんぱく質、脂質が不足するとフレイル化が起こりやすいことが示されており、特に肉、乳製品などの不足がフレイルにつながる可能性が示唆されています。また、高齢者をたんぱく質の摂取量ごとに5つのグループに分けて3年間追跡調査を行って骨格筋量の変化を調べたところ、たんぱく質摂取量が最も少ないグループにおいて筋肉量の減少が最も大きいという結果が得られました。この結果は、高齢者においてはたんぱく質の十分な摂取が骨格筋量の減少を抑制することにつながる可能性を示唆しています。

 高齢者においてたんぱく質の摂取が推奨される理由としては、たんぱく質の摂取量が低下すること、たんぱく質の利用効率が低下すること、たんぱく質の必要量が増加することなどが挙げられます。一般的に、高齢化すると活動量が減ることからたんぱく質をあまり摂らなくても良いと考えられがちですが、これらの理由から、高齢者ではより多くのたんぱく質摂取が必要であるという考え方が現在のコンセンサスになっています。

 なお、高齢者ではたんぱく質を合成する作用が低下します(たんぱく質同化抵抗性)。高齢者では成人に比べて血中アミノ酸のたんぱく質同化の閾値が高くなり、その結果としてたんぱく質の合成に使えるアミノ酸の量が減少するためです。つまり、高齢者においては、より多くのたんぱく質を摂取して血中アミノ酸濃度を上げ、たんぱく質合成に使えるアミノ酸の量を増やす必要があるということです。たんぱく質同化抵抗性を改善するためには、積極的にたんぱく質やアミノ酸(特にロイシン)を摂取することが重要です。また、糖尿病ではたんぱく質同化抵抗性が悪化しやすいことから、血糖管理をしっかり行うことも重要です。抗炎症作用や抗酸化作用のある食品・サプリメントの摂取や、レジスタンス運動、微小循環の改善(有酸素運動)なども有効です。

 また、体たんぱく質の合成は摂取したアミノ酸の体内利用能に左右されることが分かっていることから、アミノ酸の体内利用能の高い“良質な”たんぱく質を摂取することも重要です。

 

 コロナ禍であるからこそ、科学的根拠に基づき、PDCAサイクルを実践した効果的な対策を行うことが重要です。特に、高齢者においては長引く自粛生活でフレイル化の懸念が高まっていることから、十分な運動やバランスの良い食事によって筋肉量の減少を防ぐことをしっかりと啓発することが重要であり、それらがフレイルの予防や健康寿命の延伸にもつながるのではないかと考えています。

 

講演ダイジェスト動画

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▽第23回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓

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