2022/01/14

Vol.218 (3) トピックス 「”栄養の力で人々を健康に、幸せにする”を世界へー東京栄養サミットが閉幕」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.218
「”栄養の力で人々を健康に、幸せにする”を世界へー東京栄養サミットが閉幕」

「栄養サミット」とは地球規模の栄養課題の解決を目指す国際的な取り組みで、ロンドンオリンピック・パラリンピックを契機に始まりました。オリンピック・パラリンピックの開催国が主催するのが慣行であり、2013年のロンドン、2016年のリオデジャネイロに続き、202112月に第3回目となる「東京栄養サミット2021」が開催されました。

東京栄養サミット2021では、今後国際社会が行うべき栄養改善の取り組みの方向性が示されるとともに、様々なステークホルダーから栄養改善のための行動や誓約を示したコミットメントが発表されました。                      

国や国際機関などのトップが参加 ―ハイレベル・セッション

127日に行われたハイレベル・セッションには、約30か国の首脳級・閣僚級の他、国連や世銀、WHOなどの国際機関の長、企業や学術界の代表などが参加しました。

岸田総理大臣の開会スピーチでは、「栄養不良の二重負荷」の問題が世界共有の課題となっていること、新型コロナ感染症によって特に子どもの栄養状況が一層悪化していることなどが述べられ、今後3年間で3,000億円以上の栄養に関する支援を行う意向が表明されました。また、新型コロナウイルスについて、特にワクチン需要があるアフリカに対し、1,000万回分をめどにワクチンを供与する旨も述べられました。

66か国20企業を含む156のステークホルダーからは331のコミットメントが提出され、計270億ドル以上の栄養関連の資金拠出が表明されるなど、過去の栄養サミットを上回る成果が得られました。

なお、公益社団法人日本栄養士会からは、次のようなコミットメントが発表されています。

  1. アジアを中心とした1 か国以上において、栄養教育の礎となる学校給食への取り組みをスタートラインとして、管理栄養士・栄養士等の教育養成、さらに栄養士制度の創設や持続可能な栄養改善基盤の構築を支援します。
  2. すでに栄養士を養成し配置している国1 か国以上に対しては、人材のスキルアップの支援などを通じて栄養改善を促進します。

健康・食・強靭性をテーマに栄養改善を議論-テーマ別セッション

128日に行われたテーマ別セッションでは「健康」「食」「強靱性」の3つのテーマ毎にパネルディスカッションが設けられ、各国政府、国際機関などの幅広い関係者がパネリストとして参加しました。また、これらのテーマの横断的視点として「説明責任」「財源確保」についても議論されました。

 

東京栄養サミット20215つのテーマと主な論点

  • 健康:栄養のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)への統合

栄養は疾病の予防・治療に重要であり、各国の保健政策・施策や保健サービス提供体制に栄養サービスを含める必要がある。栄養改善による健康増進を図り、UHCの達成を推進する。

【取り組みの例】政府/ドナー:保健サービス提供体制への基本的な栄養サービス(栄養不良早期発見のための検査、母乳育児の支援、乳幼児へのビタミンA補給等)の効果的な導入、栄養関連の保健製品へのアクセス向上、栄養に関する人材の育成等

  • ② 食:安全で 持続可能かつ健康的な食料システムの構築

栄養改善のためには食環境を整える必要があり、そのためには安全で持続可能かつ健康的な食を推進する食料システムの構築が重要。世界の食料生産・消費のあり方、気候に配慮した農業等を通じて人と地球の健康を目指す。

【取り組みの例】民間企業:消費者における栄養価の高い食品の需要創出とアクセス向上、職場における栄養改善の促進、温室効果ガス排出量などに配慮した持続可能かつ健康的な食品の生産促進、食品廃棄の削減に向けた取り組みの促進等

  • ③ 強靭性:脆弱な状況下における栄養不良対策の促進

紛争や気候変動等の影響を受けた脆弱な状況下では栄養不良が課題であり、妊産婦や乳幼児など最も立場の弱い人々に対する効果的な栄養不良対策の促進が重要。緊急人道支援と開発援助間での調整も必要。

【取り組みの例】国際機関:消耗症や発育阻害の予防・治療の拡充、緊急的ニーズ及び長期的ニーズへの対応のためのドナー間(緊急人道支援と開発援助)での調整と責任分担の明確化、紛争や干ばつ等のリスク情報に基づいた栄養危機への備えの強化等

  • ④ 説明責任:データに基づく説明責任の促進

効果的な栄養改善の成果を着実に得るために、質の高いデータ収集及びエビデンスに基づいた進捗状況の測定が重要。透明性の高い説明責任メカニズムの構築も期待されている。

  • ⑤ 財源:栄養のための資金調達の推進

栄養改善のための財源確保が重要。そのためには、栄養のための国内資金の増加、予測可能なドナー資金の増大、革新的かつ触媒的な資金調達モデルの構築等が必要。

東京栄養サミット2021は、2日間の議論の成果をまとめた「東京栄養宣言(グローバルな成長のための栄養に関する東京コンパクト)」を発出し、閉幕しました。東京栄養宣言には、2030 年までにあらゆる形態の栄養不良を終わらせるために、上記5項目について今後取り組むべき方向性が示されています。(東京栄養宣言の全文はこちら

岸田総理大臣はスピーチの中で、次のように述べました。

「栄養の力で人々を健康に、幸せにする。これは、日本栄養士会会長の中村丁次氏の言葉です。日本は、この思いを世界に広げます。」

各ステークホルダーが世界の栄養課題の解決に向けた行動を加速することが求められる中、食と栄養の専門職としての管理栄養士・栄養士の活躍にさらなる期待が高まっていると言えるでしょう。

 

参考

東京栄養サミット2021(外務省)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ghp/page25_002043.html

日本栄養士会のコミットメント(公益社団法人日本栄養士会)

https://www.dietitian.or.jp/commitment/#Commitment

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