健康・栄養に関する学術情報
機能性表示食品制度は健康機能を謳った生鮮食品の開発の救世主となるのか?
2015年に施行された機能性表示食品制度は、生鮮食品も対象に含められた画期的な届け出制で「身体の特定の部位の表現」や「主観的な指標による評価」などが認められ、2021年7月15日には届け出受理数は4177件に達している。しかしながら、機能性表示食品の多くは、加工食品やサプリメントであり、生鮮食品は、2021年6月6日現在で106件、全体の2~3%に過ぎない。一方、世界に先駆けて1991年に登場した「特定保健用食品」、いわゆる「トクホ」は、個別の商品ごとに有効性や安全性について審査を受け、表示については国の許可を受ける必要があり、申請のための費用も多額であった。そのために、許可件数も1000件余りに留まり、また、生鮮食品が許可されることもなかった。このような背景で、2015年に初めて、機能性表示食品制度のなかで生鮮食品として、骨の健康維持を表示した大豆もやし(関与成分:イソフラボン)と三ケ日みかん(関与成分:βクリプトキサンチン)の2品目の届け出が受理されて以来、リンゴ、メロン、ブドウ、バナナなどの果物や、トマト、ケール、ホウレンソウなどの野菜とともに、鶏胸肉や豚枝肉、カンパチやブリなどの届け出が受理されている。これらの健康機能をうたった生鮮食品の開発は、産業界から熱い視線が投げかけられているが、著者(山本万里博士)の属する農研機構では、産官学の連携によりヒト介入試験を含めた機能性の評価を進めている。最近、農研機構で開発された機能性農産物を組み合わせた「機能性弁当」を内臓脂肪が高めの被験者が継続的に喫食した結果、6週間の摂取で内臓脂肪面積が有意に9.2cm2減少したという、興味ある結果を報告している。今後、科学的根拠に基づいたおいしくて安全な機能性農産物・生鮮食品が消費者に届けられるための信頼性の高い共同研究と共に、正しい情報の伝達が期待されている。
参考
山本(前田)万里、5年目を迎えた機能性表示食品制度と農林水産物での活用Functional Food Research, Vol.16, 11-19 (2020)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ffr/16/0/16_FFR2020_p11-20/_pdf