健康・栄養に関する学術情報
多様性に富む食事は認知機能の低下を防ぐ
食事の摂取内容と加齢に伴う認知機能の低下が関連することはよく知られています。有名な地中海食は心血管疾患の発症とともに認知機能の低下を抑制すること、また日本においても、魚介類、豆類、野菜、海藻、乳製品に富む食事が認知機能に良い結果をもたらすことが報告されています。国立長寿医療研究センターが行っているNILS-LSAという長期縦断疫学研究において、大塚らはどの食品が認知機能に良いかという視点とは異なり、食の多様性という観点から認知機能との関連を検討しました。その結果、多様性の高い食事、すなわち多くのジャンルの食品を摂取することが加齢による認知機能の低下を防ぎ(論文#1)、また、認知機能に密接に関係する海馬の萎縮を防ぐ可能性を示しました(論文#2)。これらの研究は、偏らない食生活が認知機能の低下を防ぐ働きのあることを示すものであり、中年期以降の食事指導に新しい視点のエビデンスを提供するものです。
(論文要旨)
【論文1】
NILS-LSAにおける第2次調査(2000~2002年)の参加者のうち、60~81歳で、Mini-mental state examination(30点満点)による認知機能検査に異常がなく、その後のフォローアップ検査を受けた男性298名、女性272名を対象とした。対象者の連続3日間の食事摂取調査を行い、17に設定したジャンルの食品をどのくらい摂取したかという調査結果からQuantitative Index for Dietary Diversity (QUANTIDD;以下Q)という食の多様性を示す指標を計算し、その後の認知機能低下(MMSE≦27)との関係を調べた。Qは0~1の間の数値をとり、大きいほど食の多様性が高いことを示す。その結果、Qが0.04高くなると認知機能低下のオッズ比(リスク)は0.79に低下し、さらに対象者をQの低い方から4群に分け、Qがもっとも低い群を1とすると、Qが高くなる順に0.99、0.68、0.56とオッズ比(リスク)が低下した。
【論文2】
NILS-LSAに参加した40-89歳の1689名(男性50.6%、女性49.4%)について、Qと、脳MRIにより計測した海馬および灰白質の体積の2年間における変化との関係を調べた。対象者をQにより5群に分け検討したところ、Qの低い群から順に、海馬の体積の減少は1.31%、1.07%、0.98%、0.81%、0.85%であり、Qが高くなるほど海馬の体積の減少が少なかった。灰白質の体積も同様の傾向であった。
論文
【論文1】
Otsuka R, Nishita Y, Tange C, Tomida M, Kato Y, Nakamoto M, Imai T, Ando F, Shimokata H: Dietary diversity decreases the risk of cognitive decline among Japanese older adults. Geriat Geront Int 2017 Jun;17(6):937-944.
【論文2】
Otsuka R, Nishita Y, Nakamura A, Kato T, Iwata K, Tange C, Tomida M, Kinoshita K, Nakagawa T, Ando F, Shimokata H, Arai H. Dietary diversity is associated with longitudinal changes in hippocampal volume among Japanese community dwellers. Eur J Clin Nutr. 2020 Sep 2. doi:10.1038/s41430-020-00734-z.Epub ahead of print. PMID: 32879451.