健康・栄養に関する学術情報
ビタミンD栄養状態は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患に影響するか?
皮膚で紫外線の作用で合成された、あるいは食事から摂取されたビタミンDは、肝で25-hydroxyvitamin Dとなり、更に腎で活性型の1,25-dihydroxyvitamin Dとなり、小腸、骨、腎に作用し、カルシウム、リン代謝を調節する。ビタミンDの古典的作用はカルシウム、リンの代謝調節であるが、様々な組織で局所的に1,25-dihydroxyvitamin Dが産生され、免疫調節、細胞増殖抑制、 血圧調節、インスリン反応性などにも影響を及ぼしている。マクロファージでは抗菌ペプチドの産生を促し、結核菌に作用すること、25-hydroxyvitamin DはC型肝炎ウイルスの増殖を抑制すること、更にビタミンD欠乏患者にビタミンDを補充すると上気道感染が抑制されることが報告されている。そこで、MeltzerらはCOVID-19罹患にビタミンDの栄養状態が何らかの影響を及ぼしているか検討した。
(論文要旨)
研究はCOVID-19検査前のビタミンDの栄養状態が、COVID-19罹患に影響するかどうか検討したものである。2020年3月3日から4月10日の間にシカゴ大学病院でCOVID-19のPCR検査を受けた4314人の患者の1年以内のデータを調べ、PCR検査を受ける前の1年間の間に血清25-hydroxyvitamin Dあるいは1,25-dihydroxyvitamin D濃度が測定された489人の患者を対象として、後ろ向きのコホート研究が行われた。489人の患者のビタミンD栄養状態は、血清25-hydroxyvitamin Dあるいは1,25-dihydroxyvitamin D濃度とビタミンD服用歴を勘案し、COVID-19検査直前のビタミンDの栄養状態が欠乏と考えられる群124人、欠乏状態にはなかったと考えられる群287人、その他78人に分類された.489人の患者のうち71人(15%)がCOVID-19検査陽性であった。多変量解析では、高齢者、非白人、ビタミンD欠乏者でCOVID-19検査陽性者が有意に多いという結果が得られた。ビタミンD欠乏者の非欠乏者に対するCOVID-19検査陽性の相対危険度は1.77であった。ビタミンD欠乏者の予想COVID-19検査陽性率は21.6%、ビタミンD非欠乏者の予想COVID-19検査陽性率は12.2%であった。
この単施設における後ろ向きコホート研究の結果から、ビタミンDの欠乏状態はCOVID-19罹患リスクを高くする可能性が考えられ、ビタミンDがCOVID-19罹患に影響を与えるかどうか、今後、無作為試験を行い検討する必要があるものと考えられる。
論文
Meltzer DO, Best TJ, Zhang H, Vokes T, Arora V, Solway J. Association of vitamin D status and other clinical characteristics with COVID-19 test results. JAMA Netw Open 2020 Sep; 3(9): e2019722
本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/article-abstract/2770157