2021/05/14

Vol.209 (2) 2019年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告 「小腸オルガノイドによる腸管内クロストークの解明」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.209
2019年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
小腸オルガノイドによる腸管内クロストークの解明
国立成育医療研究センター研究所 再生医療センター生殖医療研究部  

阿久津 英憲 先生

要旨

 ヒト腸管内の微生物叢は腸管細胞群と密に相互作用することで局所だけでなく生体の恒常性までを維持する複雑な腸内生態系を構築している。この破綻は局所である腸管関連疾患発症や病態との関連性だけでなく、アレルギーや代謝性疾患など全身性疾患との関連性も示唆されている。近年、微生物叢と腸管細胞群とのクロストーク解明は医科学上重要な意義がある。腸の発達とホメオスタシスの理解および病因が未解明な腸疾患のいくつかのin vitroモデルが開発されている。ヒト多能性幹細胞から生体の小腸と類似した組織と生理機能を有する小腸オルガノイド(ミニ小腸)の創成に成功した(JCI Insight, 2017)。このミニ小腸を応用し粘膜上皮細胞で産生される生理活性物質の発現動態そして腸管生理機能を解析した。ミニ小腸では、ZO-1Claudinなどの粘膜上皮バリアの形成に必須のタンパク質が局在性を保ち存在していることがわかった。更に、リポ多糖(LPS)等による刺激試験系を開発し、試験管内でヒト腸管の粘膜上皮間質のクロストークを解析するためのモデル構築を進めた。炎症惹起試験で生体同様の腸管炎症性サイトカイン分泌を認めるなど、腸管内クロストークの解明へ向けその研究基盤を構築できた。

一覧へ戻る