メールマガジン「Nutrition News」 Vol.145
第18回ダノン健康栄養フォーラムより
腸内細菌と免疫
東京大学
名誉教授 上野川修一 先生
第18回ダノン健康栄養フォーラムより
腸内細菌と免疫
東京大学
名誉教授 上野川修一 先生
腸内には約100兆個、重さにして約1.5kgもの嫌気性細菌が生息しています。枝分かれした形のビフィドバクテリウム、桿状のラクトバチルス、球形をしたバクテロイデスやクロストリジウムなど、その種類は約1,000種類とも言われ、主に大腸内に存在しています。私たち(宿主)と腸内細菌は共生関係にあり、宿主が腸内細菌に“食”と“住”を与えている一方で、腸内細菌は免疫系の活性化、神経系などの調整、病原菌の増殖の抑制等を通じて、宿主の恒常性維持に関与しています。
腸内細菌叢については、加齢やストレスなど様々な要因によって変動すること、日本人と欧米人では異なる傾向にあること、日本人は海藻中の多糖類を分解する独特の遺伝子を持つ腸内細菌を持っていることなどが分かっています。最近では、食生活パターンによって腸内細菌叢が変わることが報告されています。例えば、高脂肪食、高たんぱく質食、高炭水化物食など摂取パターンの変化によってファーミキューテス門、バクテロイデーテス門、アクチノバイテリア門などの菌数、菌の構成が変化する傾向にあることが認められています。
腸内細菌叢については、加齢やストレスなど様々な要因によって変動すること、日本人と欧米人では異なる傾向にあること、日本人は海藻中の多糖類を分解する独特の遺伝子を持つ腸内細菌を持っていることなどが分かっています。最近では、食生活パターンによって腸内細菌叢が変わることが報告されています。例えば、高脂肪食、高たんぱく質食、高炭水化物食など摂取パターンの変化によってファーミキューテス門、バクテロイデーテス門、アクチノバイテリア門などの菌数、菌の構成が変化する傾向にあることが認められています。
腸内細菌と免疫
免疫反応は、ウィルスや病原菌、がん細胞を攻撃する私たちの体になくてはならない防御機構で、自然免疫系と獲得免疫系に大別されます。従来は胸腺や骨髄、リンパ管等を中心とした免疫学が進んできましたが、最近では、それと同時に腸管免疫系の重要性が言われるようになりました。小腸には腸管上皮、パイエル板といった特殊な免疫系が存在し、また、小腸の外側には腸間膜リンパ節と言われる非常に重要な器官があります。腸管免疫系は最大規模の免疫系で、腸の免疫系にある細胞や抗体は全身の免疫系の6割を占めています。病原細菌にしろ食物にしろ、口から入ってくるものは生体にとって異物であるので、そこには最大の免疫系があって然るべきでしょう。
腸管免疫系は腸内細菌と相互に作用しています。体にとって安全なプロバイオティクスや食品たんぱく質に対しては免疫反応を起こさず受諾し(経口免疫寛容)、病原細菌やウィルスなど体にとって危険なものはIgA(免疫グロブリン)を使って排除するという非常に賢い仕組みをもっています。一方、栄養不足、ストレス、加齢などは、免疫系にも影響を及ぼします。これらの要因によって免疫機能が低下すると、感染症やがんなどに罹患しやすくなります。また、これらの要因によって免疫系の構成細胞のアンバランスを引き起こすと、急性、慢性の炎症を経て様々な疾患にもつながります。最近では、アレルギーや炎症性腸疾患のような免疫系の疾患だけでなく、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病も免疫系の異常に関係していることが分かってきています。
腸管免疫系は腸内細菌と相互に作用しています。体にとって安全なプロバイオティクスや食品たんぱく質に対しては免疫反応を起こさず受諾し(経口免疫寛容)、病原細菌やウィルスなど体にとって危険なものはIgA(免疫グロブリン)を使って排除するという非常に賢い仕組みをもっています。一方、栄養不足、ストレス、加齢などは、免疫系にも影響を及ぼします。これらの要因によって免疫機能が低下すると、感染症やがんなどに罹患しやすくなります。また、これらの要因によって免疫系の構成細胞のアンバランスを引き起こすと、急性、慢性の炎症を経て様々な疾患にもつながります。最近では、アレルギーや炎症性腸疾患のような免疫系の疾患だけでなく、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病も免疫系の異常に関係していることが分かってきています。
腸内細菌と免疫系の相互作用
腸内細菌は、腸管免疫系の機能の発達を促したり、代謝生産物により免疫系の機能を充実させるなどの重要な役割を果たしています。一方で腸管免疫系は、腸内細菌が定着することを受諾し、腸内細菌の構成バランスをとっています。この相互作用のおかげで、私たちは免疫系やその他の生理機能を一定に保つことができるのです。
腸内細菌は、その菌株によって免疫系に対する作用が異なります。例えば、バクテロイデスはIgAの産生を促進し、ビフィドバクテリウムは特定の条件で炎症を抑制する働きをします。また、腸内細菌は腸管免疫系に対してエピジェネティック※1な制御を行っていると考えられています。例えば、グラム陰性菌※2に対するトル様受容体(Toll-like receptor:TLR)※3であり炎症と関係すると言われているTLR4の変化を無菌マウスと通常のマウスで比較した研究では、腸内細菌がある場合にTLR4の遺伝子がメチル化されていることが示されました。この結果から、腸内細菌が病原細菌によって起こる炎症に対して抑制的に働くことが考えられます。腸内細菌は、私たちの生命の根源といえるところまで深く関与していると言えるのかもしれません。
なお、腸内細菌の菌体自体ではなく、代謝生産物についての研究も、近年大きな進展を見せています。私たちは食物繊維を分解することができませんが、腸内細菌はそれを体内に取り入れて短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸など)などを作り出します。クロストリジウムでは酪酸、ビフィドバクテリウムでは乳酸と酢酸というように、代謝生産物は腸内細菌の種類によって異なりますが、それらの代謝生産物が、免疫細胞や神経細胞、脂肪細胞にある受容体と結合し、免疫を調節したり、エネルギー代謝などを調節したりすることも分かってきています。
腸内細菌は、その菌株によって免疫系に対する作用が異なります。例えば、バクテロイデスはIgAの産生を促進し、ビフィドバクテリウムは特定の条件で炎症を抑制する働きをします。また、腸内細菌は腸管免疫系に対してエピジェネティック※1な制御を行っていると考えられています。例えば、グラム陰性菌※2に対するトル様受容体(Toll-like receptor:TLR)※3であり炎症と関係すると言われているTLR4の変化を無菌マウスと通常のマウスで比較した研究では、腸内細菌がある場合にTLR4の遺伝子がメチル化されていることが示されました。この結果から、腸内細菌が病原細菌によって起こる炎症に対して抑制的に働くことが考えられます。腸内細菌は、私たちの生命の根源といえるところまで深く関与していると言えるのかもしれません。
なお、腸内細菌の菌体自体ではなく、代謝生産物についての研究も、近年大きな進展を見せています。私たちは食物繊維を分解することができませんが、腸内細菌はそれを体内に取り入れて短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸など)などを作り出します。クロストリジウムでは酪酸、ビフィドバクテリウムでは乳酸と酢酸というように、代謝生産物は腸内細菌の種類によって異なりますが、それらの代謝生産物が、免疫細胞や神経細胞、脂肪細胞にある受容体と結合し、免疫を調節したり、エネルギー代謝などを調節したりすることも分かってきています。
腸内共生系の破綻と修復
このように、腸内細菌は、宿主との共生によって、免疫系や内分泌系などに対して安定・活性化をもたらし、生体恒常性の維持に貢献しています。しかし、前述の通り、様々な要因によって共生が破綻すると様々な病気のリスクが増大することが、多くの研究で報告されています。中でも、アレルギー、炎症性腸疾患、肥満などについて腸内細菌叢の特徴が報告されており、腸内細菌を正常化することによってこれらの疾患の予防につながるのではないかと考えることができます。プロバイオティクス(生体に有益な作用をする微生物)やプレバイオティクス(腸内細菌叢を改善して生体に有益な作用をする、食物繊維、オリゴ糖、難消化性のでんぷんなどの成分)は、腸内共生系を修復し疾病を予防する上で重要な役割を果たし得るのではないかと考えられています。実際、プロバイオティクスでは感染症(風邪、インフルエンザ、ノロウィルス下痢症など)、アレルギー(アトピー性皮膚炎、花粉症など)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)、プレバイオティクスでは食物繊維などの摂取により代謝生産される短鎖脂肪酸が炎症性腸疾患、肥満や糖尿病などに作用するのではないかということが動物実験やヒトの臨床試験で報告されています。今後、この分野の研究がさらに進み、様々な疾病リスクの低減に貢献することを期待しています。
※1 エピジェネティクス:DNAの塩基配列ではなくDNAのメチル化やヒストンのアセチル化によって遺伝情報の発現が調節される機構
※2 グラム陰性菌:グラム染色と呼ばれる方法によって赤色に染色される細菌の総称(バクテロイデスなど)。なお、グラム染色で紫色に染色される細菌をグラム陽性菌と言い、ビフィドバクテリウムやラクトバチルスなどが該当する。
※3 トル様受容体:細胞の表面や細胞内オルガネラに存在する膜たんぱく質。菌体成分等を認識して自然免疫系を活性化させることが知られている。TLRの種類によって、認識する菌体成分等も異なる。