2016/07/12

Vol.142(2) 2014年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告 「健康長寿日本一の静岡県在住の中高年男女における乳製品摂取量、体脂肪量と 腸内常在菌プロファイルの関係」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.142
2014年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
健康長寿日本一の静岡県在住の中高年男女における乳製品摂取量、体脂肪量と 腸内常在菌プロファイルの関係
静岡県立大学 食品栄養科学部 公衆衛生学研究室  

栗木 清典 先生

 腸内常在菌の構成と健康との関連についての研究が世界各地で進められています。腸内常在菌プロファイルのうち、ヨーグルトなどの乳製品に多く含まれており、宿主の健康に良い効果をもたらすと考えられているBifidobacteriumやLactobacillales (一部の菌種) は、腸管感染防御作用、免疫機能の増強作用、腸内腐敗の抑制作用等による「善玉菌」としての生理作用が報告されています。一方、「悪玉菌」には、口腔常在細菌でもあるPrevotellaが日和見感染菌として知られています。Clostridium目の一部の菌種は毒素産生菌ですが、別の一部の菌種は酪酸菌として整腸剤に使用されており、一般に宿主の腸内常在菌の最優勢を占める場合が多いとされています。このように、腸内常在菌は多種多様で、生理作用も多いため、宿主の健康に与える影響は不明のままです。
 一方、生活習慣病の発症リスクは、遺伝子などの宿主要因よりも食生活習慣を含む環境要因で高いとされています。日本人の食事 (食品・栄養素の摂取量) は、世界的に健康長寿の食事と注目されていますが、個人内変動と個人間変動はともに大きいため、その評価は容易ではありません。また、男女、世代で、食生活習慣は異なっていることから、健康診断、食生活習慣調査、腸内常在菌プロファイルの各種データの相互関連を明らかにする研究は、世界中で社会問題となっている肥満やメタボリックシンドロームの予防対策の確立に役立つと考えられます。
 そこで、本研究では、健康長寿日本一 (男2位、女1位)で、肥満率も低い (男5位、女:肥満率が低いので算出不能) 静岡県の中~高年齢の男女において、乳製品摂取、BMI関連項目 (BMI、腹囲、体脂肪率、内臓脂肪量) と腸内常在菌プロファイルの関連を検討しました。
 

要旨

 健康長寿日本一で肥満率の低い静岡県の中~高年齢の男女84人において、乳製品摂取、BMI関連項目 (BMI、腹囲、体脂肪率、内臓脂肪量) と腸内常在菌プロファイル (構成割合:%) の関連を検討しました。次世代シークエンサー (NGS) で測定した横断的検討において、男ではLactobacillalesとStreptococcus菌数で腹囲と内臓脂肪量に正の関連が、女では Bifidobacterium菌数でBMIと体脂肪率に負の関連がみられました。牛乳摂取について、男ではBMIと腹囲で負の関連が、女でLactobacillalesとStreptococcus菌数で正の関連がみられました。同一対象者の3ヶ月毎4回/年の変動を考慮した検討では、性別、年齢など交絡要因の補正後、BMIは、初回時のBifidobacterium、Lactobacillales、Streptococcus菌数と関連することが示唆されました。Lactobacillales菌数は、初回時のヨーグルト摂取と関連がみられた。旧法のT-RFLPで測定した横断的検討では、ヨーグルト摂取者のPrevotella菌数は非摂取者の約1/3と有意に低く、男ではPrevotella菌数と腹囲の値に正の相関がみられたことから、男へのヨーグルト摂取による腹囲の減少効果が期待されます。しかし、NGSによる測定結果との整合性を図ること、ヨーグルト摂取を勧奨する介入研究を実施すること、メカニズムの解明することなど、さらなる研究が必要です。 

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