2018年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
ビタミンD関連遺伝子多型による健常成人の脳形態への影響
東北大学 加齢医学研究所 機能画像医学分野
國時 景子 先生
要旨
【要旨】
ビタミンD欠乏症は近年アルツハイマー型認知症のリスクとなり得ることが指摘されている。その背景に免疫調整やカルシウムホメオスタシスの維持、抗酸化作用など、ビタミンDの中枢神経系への様々な作用が知られるようになってきた。ビタミンD欠乏症の脳構造への影響は明らかにされていないものの、先行研究では、ビタミンD欠乏群での認知機能および実行機能、特に視覚認知の低下が報告されている。そこで、認知機能低下とビタミンD欠乏症の関係の背景となる神経基盤を明らかにすることを目的とし、研究を行った。
19歳から27歳の健常若年日本人294名を対象に頭部MRIおよび血液サンプルを採取した。血中ビタミンD濃度はELISA法を用いて測定した。48人はビタミンD充足状態(25(OH)D>50 nmol/l)、160名は不足状態(<30 nmol/l)であった。そこで、この2群(計208名)について、VBMの手法を用いて局所脳容量を比較した。解析にはSPM12を使用した。
全脳解析において、左の縁上回がビタミンD欠乏群において有意に小さいことが明らかとなった。右の縁上回、両側の紡錘状回も、有意ではないものの、欠乏群において小さい傾向がみられた。
本研究では、若年日本人においても半数近くがビタミンD不足状態にあることが明らかとなった。ビタミンD不足は脳形態にも影響することが明らかとなった。特に紡錘状回は視覚認知を担う部位であり、先行研究での欠乏群における視覚認知機能の低下と矛盾しない結果であった。今後の研究を含め、ビタミンDの神経疾患及び脳形態への影響が解明されれば、簡易的に補充可能であることから、集団における疾患予防に大きな役割を果たすことが出来ると考えられる。