メールマガジン「Nutrition News」 Vol.133
第17回ダノン健康栄養フォーラムより
機能性食品因子と健康
愛知学院大学心身科学部健康栄養学科
教授 大澤俊彦 先生
第17回ダノン健康栄養フォーラムより
機能性食品因子と健康
愛知学院大学心身科学部健康栄養学科
教授 大澤俊彦 先生
高齢化が進んでいる現在、アルツハイマー病などの認知症は、非常に重要な問題となっています。一度アルツハイマー病にかかれば、治療をすることは非常に困難です。そのため、健常者またはMCIと呼ばれる軽度の認知障害の段階で予防することが望まれています。
DHAには、学習能力の向上、網膜反射の向上、抗炎症、抗動脈硬化などの生理活性作用があります。しかし、アルツハイマー病の患者では、脳におけるDHA含量が健常人の半分以下に減少していることが分かっています。DHAは二重結合が多く、酸化ストレスを受けやすいため、過酸化物が増加しやすくなります。このことから、DHAが減少しただけではなく、過酸化物が増加し、それがアルツハイマー病など様々な脳内の神経変性疾患の原因となるのではないかと考えられます。
DHAには、学習能力の向上、網膜反射の向上、抗炎症、抗動脈硬化などの生理活性作用があります。しかし、アルツハイマー病の患者では、脳におけるDHA含量が健常人の半分以下に減少していることが分かっています。DHAは二重結合が多く、酸化ストレスを受けやすいため、過酸化物が増加しやすくなります。このことから、DHAが減少しただけではなく、過酸化物が増加し、それがアルツハイマー病など様々な脳内の神経変性疾患の原因となるのではないかと考えられます。
「攻めの栄養学」へ
最近、DHAやEPAなどのω-3系脂肪酸の血中濃度が高い群では、前立腺がんの発症リスクが上昇するという論文が発表されました。私たちの体にとって非常に重要だと思われていたω-3系脂肪酸が、海外で、特に男性には、前立腺がん発症のリスクファクターになるということです。メタアナリシスのデータでも、ほとんどの例で、DHAの血中濃度が高い人で前立腺がんの発症リスクが高いという結果になっています。これは何を意味するのでしょうか?
以前、国立長寿医療研究センターの丸山先生との共同研究で、愛知県大府市の約2,200人を対象に調査を行った結果をご紹介します。この調査は、大豆イソフラボンとDHAの摂取量について①どちらも多く摂取している群 ②イソフラボンだけを多く摂取している群 ③DHAだけを多く摂取している群 ④どちらも摂取量が少ない群の4群に分け、脳機能の指標の1つである推定IQ値を比べたものです。すると、大豆イソフラボンとDHAの両方を多くとっている群でのみ、推定IQ値の改善が認められました。これは、大豆イソフラボンとDHAの両方を摂取することが重要であることを意味しています。つまり、抗酸化作用を持つ大豆イソフラボンがDHAの酸化をうまく防止することで、DHAの持つ本来の良い作用が期待できるということです。
食べれば食べるほどリスクが下がるという食品成分は、ほとんど存在しないと言えるでしょう。多くの成分は、病気のリスクを下げることができても、摂取量が多くなればリスクも高まります。この段階をいかにコントロールするかを考えた時、大事なのは「量」ではなく「バランス」だと思います。私たちは「非栄養素」と言われているポリフェノールやイオウ化合物、イソチオシアナートなど「第七の栄養素」の機能性に着目し、研究を進めています。五大栄養素のバランスだけではなく、これらの機能性食品因子(フードファクター)を、いかに積極的に、そしてバランスよく摂っていくか。これこそが「攻めの栄養学」であり、これからの食生活や、機能性食品開発などにおける最も重要な考え方だと思っています。
以前、国立長寿医療研究センターの丸山先生との共同研究で、愛知県大府市の約2,200人を対象に調査を行った結果をご紹介します。この調査は、大豆イソフラボンとDHAの摂取量について①どちらも多く摂取している群 ②イソフラボンだけを多く摂取している群 ③DHAだけを多く摂取している群 ④どちらも摂取量が少ない群の4群に分け、脳機能の指標の1つである推定IQ値を比べたものです。すると、大豆イソフラボンとDHAの両方を多くとっている群でのみ、推定IQ値の改善が認められました。これは、大豆イソフラボンとDHAの両方を摂取することが重要であることを意味しています。つまり、抗酸化作用を持つ大豆イソフラボンがDHAの酸化をうまく防止することで、DHAの持つ本来の良い作用が期待できるということです。
食べれば食べるほどリスクが下がるという食品成分は、ほとんど存在しないと言えるでしょう。多くの成分は、病気のリスクを下げることができても、摂取量が多くなればリスクも高まります。この段階をいかにコントロールするかを考えた時、大事なのは「量」ではなく「バランス」だと思います。私たちは「非栄養素」と言われているポリフェノールやイオウ化合物、イソチオシアナートなど「第七の栄養素」の機能性に着目し、研究を進めています。五大栄養素のバランスだけではなく、これらの機能性食品因子(フードファクター)を、いかに積極的に、そしてバランスよく摂っていくか。これこそが「攻めの栄養学」であり、これからの食生活や、機能性食品開発などにおける最も重要な考え方だと思っています。
機能性食品因子のヒト臨床試験
私は、25年以上にわたり、カカオポリフェノールの研究をしてきました。カカオポリフェノールは、発酵によって作られます。発酵の方法には、バナナの葉に包んで発酵するヒープ法や、木箱に入れて発酵するボックス法などがあります。1週間ほど発酵すると、カカオ豆は チョコレートのような褐色に変化します。これまでの研究で、カカオポリフェノールには、抗酸化、抗炎症、抗アレルギー、発がん抑制、胃粘膜障害抑制、LDL酸化抑制など、様々な機能性があることが分かっています。
今回私たちは、日本で初めて、チョコレートに関する大規模ヒト臨床試験(蒲郡スタディ)を行いました。欧米では、チョコレートについてのヒト介入試験は数多く行われています。しかし、そのほとんどは、チョコレートを毎日100gも摂取するものとなっています。チョコレート100gのエネルギーは500kcalをゆうに超えます。私たち日本人にとって、このデータは受け入れられるものではありません。
蒲郡スタディでは、約100gのダークチョコレートと同じ量のポリフェノールを含む高カカオチョコレートを使いました。45~69歳の347名に、このチョコレートを1日約25g(143kcal)、4週間摂取してもらい、血管内皮機能改善(血圧低下、動脈硬化の改善)や認知症予防に効果があるかどうかを調べました。
その結果、チョコレート摂取前後で、体重・BMIの増加は認められませんでした。また、チョコレート摂取前後で、血圧が低下することも分かりました。
動脈硬化の検査などに使われる炎症反応の指標(hs-CRP)と酸化ストレスの指標(8-OHdG)がチョコレート摂取前に高かった群では、チョコレート摂取後にそれぞれ有意な低下が見られました。この結果から、チョコレート摂取が過剰な活性酸素を抑え、また、体内の炎症反応をも抑えている可能性が考えられます。
中でも、私たちが注目したのは、BDNF(脳由来神経栄養因子)が増えるということです。BDNFはニューロンの産生を促進させ、脳にとって重要な栄養成分です。海馬に高濃度に存在し、記憶・学習などの認知機能を促進しますが、65歳以上の高齢者では加齢とともに減少し、うつ病やアルツハイマー病などでも脳内のBDNFが減少することが分かっています。最近では、運動によってBDNFが上昇することから、運動が認知症予防に重要であると言われていますが、これと同じような機能がカカオポリフェノールにあるという結果が、世界で初めて、ヒト臨床試験で得られたのです。とはいえ、チョコレートをたくさん食べれば良いということではありません。チョコレートには、糖分や乳脂肪が多く含まれるからです。全体の摂取エネルギーなどを考慮した上で、皆さんの食生活にこのような機能性を、積極的に、バランスよく取り入れていただきたいと思っています。
今回私たちは、日本で初めて、チョコレートに関する大規模ヒト臨床試験(蒲郡スタディ)を行いました。欧米では、チョコレートについてのヒト介入試験は数多く行われています。しかし、そのほとんどは、チョコレートを毎日100gも摂取するものとなっています。チョコレート100gのエネルギーは500kcalをゆうに超えます。私たち日本人にとって、このデータは受け入れられるものではありません。
蒲郡スタディでは、約100gのダークチョコレートと同じ量のポリフェノールを含む高カカオチョコレートを使いました。45~69歳の347名に、このチョコレートを1日約25g(143kcal)、4週間摂取してもらい、血管内皮機能改善(血圧低下、動脈硬化の改善)や認知症予防に効果があるかどうかを調べました。
その結果、チョコレート摂取前後で、体重・BMIの増加は認められませんでした。また、チョコレート摂取前後で、血圧が低下することも分かりました。
動脈硬化の検査などに使われる炎症反応の指標(hs-CRP)と酸化ストレスの指標(8-OHdG)がチョコレート摂取前に高かった群では、チョコレート摂取後にそれぞれ有意な低下が見られました。この結果から、チョコレート摂取が過剰な活性酸素を抑え、また、体内の炎症反応をも抑えている可能性が考えられます。
中でも、私たちが注目したのは、BDNF(脳由来神経栄養因子)が増えるということです。BDNFはニューロンの産生を促進させ、脳にとって重要な栄養成分です。海馬に高濃度に存在し、記憶・学習などの認知機能を促進しますが、65歳以上の高齢者では加齢とともに減少し、うつ病やアルツハイマー病などでも脳内のBDNFが減少することが分かっています。最近では、運動によってBDNFが上昇することから、運動が認知症予防に重要であると言われていますが、これと同じような機能がカカオポリフェノールにあるという結果が、世界で初めて、ヒト臨床試験で得られたのです。とはいえ、チョコレートをたくさん食べれば良いということではありません。チョコレートには、糖分や乳脂肪が多く含まれるからです。全体の摂取エネルギーなどを考慮した上で、皆さんの食生活にこのような機能性を、積極的に、バランスよく取り入れていただきたいと思っています。