2015/03/02

Vol.122(2) 第16回ダノン健康栄養フォーラムより 「乳製品と骨の健康」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.122
第16回ダノン健康栄養フォーラムより
乳製品と骨の健康
女子栄養大学 栄養生理学研究室
教授 上西一弘 先生
 骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義されています。骨強度は「骨密度+骨質」で表わされます。以前は「骨密度が高ければ骨は健康」と言われていましたが、骨密度が高くても骨折するケースがあり、「骨質」という概念が生まれました。しかし、骨強度は70%が骨密度、30%が骨質で説明できることから、やはり骨密度は高ければ高いほど良いと言えるでしょう。
 健康な人の骨と骨粗鬆症の人の骨を比較すると、健康な人の骨の中は、スポンジ状にしっかり詰まっている一方で、骨粗鬆症の人の骨は「す」が入ったように穴が開いています。この両者に同じ力を加えると、骨粗鬆症の人の骨は潰れてしまいます。これが「圧迫骨折」です。背骨は26個の骨が積み木のようにつながっています。そのどこかが潰れると、だんだんと身長が縮んだり、腰や背中が曲がってきたりします。これらは老化現象と捉えられがちですが、そうではなく、背骨が潰れることが原因なのです。
 また、骨粗鬆症で問題となるのが、大腿骨頸部(脚の付け根)の骨折です。大腿骨頸部骨折は、寝たきりや要介護状態にもつながります。手術で治すことはできますが、手術後、苦しいリハビリを経て歩けるようになっても、今度は反対側が折れてしまうケースが非常に多いと言われています。
 
骨とカルシウムの働き
 
  体内のカルシウムのうち、99%は骨に存在しています。カルシウムは、骨を作るだけでなく、筋収縮の調整や神経細胞機能の調整など、私たちの体の様々な機能を調節する働きをしています。カルシウムがないと、私たちは生きていけないのです。一方、骨は、体を支えたり、筋肉とともに体を動かしたりする他、重要な臓器の保護、造血作用などの働きがありますが、中でも大事なのは「カルシウムの貯蔵庫」としての働きです。カルシウムは、私たちが生きていくために不可欠なものなので、摂取量が少なくなると、貯金を取り崩すように、どんどん貯蔵庫からカルシウムを取り出していきます。最終的に貯蔵庫が空になり、潰れるような事態になっても、カルシウムを取り出してしまいます。そうならないために、若い時にできるだけカルシウムを貯金して、将来はその貯金を使わないようにすることが大切です。
 生まれたばかりの赤ちゃんは30gのカルシウムを持っています。加齢とともにカルシウム量は増え、男性の場合は18歳くらいで最大骨量(約1kg)となります。そして、40歳くらいになると、少しずつカルシウム量は減っていき、だいたい80歳くらいで骨粗鬆症の領域に入ります。男性の平均寿命も同じく約80歳なので、男性の場合はそんな心配しなくても良いかもしれません。もちろん、男性でも対策は必要ですが、問題はやはり女性です。女性の最大骨量は約700gです。閉経の時期になると、骨を守る働きのある女性ホルモンが減少するためにカルシウム量もぐんと減り、60歳を過ぎたぐらいで骨粗鬆症の領域に入ります。女性の寿命は約87歳です。つまり、60歳で骨粗鬆症の領域に入るということは、ちょっとしたことで骨折するかもしれない状態で25年近く生きるということです。そうならないためには、成長期にどれだけ骨量を増やせるかが重要になってくるのです。  
 骨量を高め、維持するには、バランスの良い食事によって全身の栄養状態を良くした上で、骨の材料となるカルシウムやビタミンDをしっかり摂ることが大切です。骨に刺激を与えるために、運動をすることも欠かせません。カルシウムを多く含む食品には、牛乳・乳製品、骨まで食べることのできる小魚、緑黄色野菜、大豆・大豆製品などがあります。中でも牛乳・乳製品は、1回使用量あたりのカルシウム含量が多く、カルシウム供給源としての意義は高いと言えます。実際に、高校生の男子について、牛乳摂取と骨量の関連について調べたところ、牛乳を毎日200ml以上飲むと答えた群では骨量が多いという結果が得られました。しかし、国民1人1日当たりのカルシウム摂取量は年々減少しており、最新の国民健康栄養調査の結果では、500mg/日を下回っている状況です。カルシウムが大事であることが分かっていても、日本人の食生活では十分なカルシウムを摂るのが難しく、積極的に牛乳・乳製品を摂ることを意識しないといけないと思います。また、牛乳は、カルシウムだけではなく、ビタミンB2、ビタミンB12、パントテン酸、リン、カリウム、タンパク、亜鉛、ビタミンA、ビタミンDなど様々な栄養素の供給源としても重要です。
 今の子どもたちは、牛乳をあまり飲まないと言われています。しかし、それは必ずしも「牛乳が嫌いだから」ではないことが、インターネット調査の結果から分かりました。「習慣が無いから」「飲む機会が無いから」「家に牛乳が無いから」「給食で飲む機会がなくなったから」などの回答も多く見られたのです。子どもたちは「チャンスがあれば牛乳を飲む」ということです。家庭に、牛乳やヨーグルト、チーズなどを置くようにすれば、子どもたちは、自分で冷蔵庫を開けて、それらを摂ることができるのです 。
 
ライフステージ別の骨粗鬆症予防
 
 小学生からの骨粗鬆症予防対策として重要なのは、カルシウムを摂り、運動量を増やし、ホルモン分泌を促すことです。ホルモン分泌において大事なのは睡眠であることから「よく食べて、よく遊び、よく寝る」が、小児期に骨を鍛えるために重要なポイントとなります。
 成人期は、バランスの良い食事と積極的なカルシウム摂取です。カルシウム摂取の目標は、1日800mgです。そのためには、牛乳・乳製品を上手に活用すると良いでしょう。できるだけ体を動かすように心がけることも大切です。また、妊娠・授乳期はカルシウムを増やすチャンスです。女性は、妊娠・出産・授乳を経ると骨密度が下がりますが、生理が再開する頃、骨密度は元に戻ってきます。そのタイミングを上手に使うと、妊娠前よりも骨密度を高くすることができます。
 高齢者では、骨折を予防することです。そのためには、骨量や筋肉の減少をできるだけ抑えて、転倒を予防することが大事です。栄養素では、タンパク質とビタミンDの摂取が重要です。ビタミンDは、食物からの摂取の他、紫外線が皮膚に当たることで生成し、代謝を経て、活性型ビタミンDとしてカルシウムの吸収を促進したり、骨を強くしたりします。また、最近では、ビタミンDが筋力の維持にも関係していることが分かってきました。ビタミンDの栄養状態の良い人の方が、筋力があり、転倒しないというデータも出ています。ビタミンDは、骨と筋肉の両面において非常に重要と言えます。特に女性の場合、過度な紫外線対策もビタミンDの生成に影響します。お肌と骨の両方を考え、紫外線を上手に利用すると良いのではないでしょうか。
 
骨太人生を目指そう
 
 これまで述べてきたように、骨を豊かにするためには、バランスの良い食事を摂り(牛乳・乳製品を上手に取り入れながら、いろいろな食品をとる)、適度な運動を行い、太陽の光を浴びて、子どもの場合は十分な睡眠をとることが重要です。本日のテーマである「乳製品と骨の健康」という点では、牛乳・乳製品は「カルシウム含量が多いこと」「カルシウムの吸収率が高いこと」「実際、牛乳摂取量の多い人は骨量が高いこと(ヨーグルトと置き換えても同様)」そして「牛乳・乳製品にはカルシウム以外の栄養素も多いこと」がポイントとなります。カルシウムを摂るためだけではなく、食生活を豊かにするため、骨の健康のために、牛乳・乳製品を上手に利用していただきたいと思います。
 

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