講演2
座長
公益社団法人日本栄養士会 会長
神奈川県立保健福祉大学 名誉教授
中村 丁次
「社会的要因とフレイル」
名古屋鉄道健康保険組合 名鉄病院 病院長
名古屋大学 名誉教授
葛谷 雅文
現在世界的な人口の高齢化に直面しており、健康寿命の延伸を目的とする上でフレイル (phenotype model)の概念が重要である。このフレイルは一般にはFriedらによるCardiovascular Health Study (CHS) 基準により診断され、1) 体重減少、2) 疲労感、3) 虚弱(筋力低下)、4) 緩慢さ (歩行速度低下)、5) 身体活動量低下、の5項目を評価し、3つ以上に当てはまる場合はフレイル、 1つまたは2つ該当する場合はプレフレイル(フレイル前段)と診断される。またこのフレイルは体重 (栄養状態)やサルコペニア(筋肉関係)に関連する要素が入っていることもあり、身体的フレイル とも呼ばれる。この身体的フレイル以外には精神・心理的フレイルや社会的フレイルなどの存在が提唱 されており、これらのフレイルは互いに強く関連しあっていることが報告されている。
今回私が担当する社会的なフレイルは外出頻度の減少や社会との交わりの減少など社会的ネット ワークの脆弱なことを指すが、今のところ定まった定義や診断法は存在しない。この社会的フレイルの 存在は身体的フレイルの要因になり、さらに身体的フレイルによる高齢者の健康障害を促進すること が既に複数報告されており、健康寿命の延伸を目標とする時にこの社会的フレイルへの対応は大変 重要であることがわかる。実際COVID-19の流行時に外出制限などにより、高齢者の社会的孤立が 強まり、社会的フレイルを介して認知機能の低下や身体的フレイルの悪化が危惧されている。
今のところこの社会的フレイルは個人レベルの社会性の低下、例えば外出頻度の低下や家族や友人 とのつながりの低さなどを指すことが多い。一方で、住民が社会とのつながりを持ちやすい環境で あったり、地域全体の信頼関係の構築など、個人レベルではなくその地域に住む集団や地域の行政の 取り組みなどが関わる社会の問題も重要である。実際周囲の環境などにより人間の行動は大きく左右 され、身体的フレイルとも関係していることが報告されている。この社会全体の問題も個人の社会的 フレイルに強く影響すると思われる。
今後、社会全体の信頼性や環境整備、ネットワーク構築に関しては自治体を中心に取り組んでいく 必要があり、個人レベルの社会的フレイルの改善と同時に進めることが地域の高齢者の身体的フレイル ならびに健康障害の予防にとって極めて重要である。