パネルディスカッション
座長
神奈川県立保健福祉大学 学長
中村 丁次
「人と地球の健康を支える管理栄養士・栄養士」
兵庫県 保健医療部 健康増進課
諸岡 歩
東京農業大学 副学長 国際食料情報学部 国際食農科学科 教授
「食と農」の博物館 館長
上岡 美保
京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 畜産資源学分野 教授
廣岡 博之
宮城大学 食産業学群 教授
石川 伸一
自然災害や地球温暖化、生産者の減少といった課題がある中、地球環境の問題や SDGs の取り組み
を踏まえた「サステナブル=持続可能な食生活」を送るために、管理栄養士・栄養士の役割を考えて
みたいと思います。
日本は地域ごとに多彩な食材や食文化があり、地産地消を実践しやすく、旬を大切にする文化があ
ります。旬の食材は生産に必要なエネルギーが少ない上、栄養価も高く、自然の生態系とのバランス
をとってくれるため、心と身体に優しい食材です。味噌や漬物などの発酵食品や、鰹節や昆布、高野
豆腐などの保存食品には、栄養価や美味しさを増す働きに加え、食材を無駄なく美味しく活用し、食
べる技術があります。旬に採れた食材を廃棄することなく、発酵食品や保存食品へと形を変えること
で一年を通して上手に食事を組み立てることが可能です。
また、食のサプライチェーンはコロナ禍で混乱しました。日本は食料生産を支える肥料の原料もほ
ぼ輸入に頼っており、食料自給率の重要性はコロナ前より高まっています。食料の生産地から食卓ま
での距離が長いほど、輸送にかかる燃料や二酸化炭素の排出量が多くなり、食料消費が環境に対して
大きな負荷を与えます。
管理栄養士・栄養士は、生産、流通、加工、消費という食の流れ全体を、総合的かつ科学的に捉え、
地域の食文化の伝承などサステナブルな視点をもって、健康で幸せな食生活をデザインすることが求
められます。
一方、サステナブルな食生活に関しては、自然環境のみならず、社会環境からのアプローチとして、
企業が製造する食品や、店舗に並ぶ食品、飲食店で提供される食事など、多様な場面で食生活への接
点を増やすことも重要です。優先すべき栄養課題である「減塩」に関しても、個人に対して減塩を意
識した食生活の実践を促すとともに、おいしく手頃な値段の減塩食品を企業が開発するなど、健康無
関心層も自然に健康になれる食環境づくりを進める必要があります。
管理栄養士・栄養士は、現在、厚生労働省において、産学官等関係者の連携により推進されている
「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」の動きにも関心を持ち、社会環境からのサステナブ
ルな食生活もデザインしてきましょう。
最後に、サステナブルな食生活を送るためには、食を選ぶ理由として「おいしい」が前提であるべ
きだと考えています。食べることで、自然とのつながり、人のぬくもりを感じられます。自分の暮ら
し、住んでいる地域、そして地球。これらを一続きに捉えるという発想の転換こそが、人と地球の健
康を支える管理栄養士・栄養士に求められることではないでしょうか。