講演2
座長
愛知学院大学 心身科学部 特任教授
大澤 俊彦
「フードテックは食の未来をどう変えるのか?」
宮城大学 食産業学群 教授
石川 伸一
SF の物語の世界で見たような未来的な食が、すでに手に届くところに迫ってきている。食料不足
や環境問題、ウェルビーイングなど、人間が抱える課題を解決するためのさまざまな「新しい食」の
開発が進んでいる。たとえば、都市でも食料を効率的に栽培できる「バーティカル・ファーミング(垂
直農法)」や、細胞を培養して食肉とする「培養肉」の開発などが進んでいる。第 4 次産業革命とよ
ばれるサイバーフィジカルシステムを基にした製造業の革命が食の分野でも起こり、リアル空間とデ
ジタル空間が融合した「スマート化」や「ロボット化」も急速に進展してきている。
新しい食の技術は、現在「フードテック(Foodtech)」とよばれている。フードテックとは、フー
ド(Food)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた言葉で、最先端のさまざまなテクノロジ
ーを食の分野に活用することとされる。具体的には、培養肉、植物性代替肉、3D フードプリンタ、
全自動で料理を作るロボット、AI(人工知能)・IoT(もののインターネット)を活用した調理機器、
さらに個人に最適化したテーラーメイド食など、さまざまなテクノロジーが食の分野に登場、応用さ
れはじめている。
新しい食は、食の生産、製造・加工、流通、消費などを変え、さらに私たちの身の回りの食生活全
体をも大きく変革し、最終的には私たちの身体や健康、さらには、共食のあり方や個人のアイデンテ
ィティなどの心にも影響を及ぼしていくのではないかと考えられる。今後、私たちが何を食べ、何を
食べていけばよいかは、このフードテックにかかっているともいえる。
フードテックが注目される背景として、年々増え続ける世界の人口がある。人口増加にともなって
食料需要が増し、なかでも問題となるのがタンパク質である。最大の供給源である従来の畜産では持
続可能な生産が難しく、しかも拡大すれば温室効果ガスの排出を増やしてしまう可能性が考えられて
いる。こうした状況のなかでも、食料生産の持続可能性を実現し、世界の人々の需要は満たしていか
なければならならず、その解決策として期待されているのがフードテックによる新しい食である。
フードテックはほかにもヴィーガンやベジタリアン、あるいは宗教上の規律によって食べるものが
制限されている人への対応策や、食の生産現場における課題や飲食店の人手不足などの解決策にもな
り得ると考えられている。