基調講演
座長
東京大学 名誉教授
清水 誠
「日本と世界の食料問題」
東京農業大学 副学長 国際食料情報学部 国際食農科学科 教授
「食と農」の博物館 館長
上岡 美保
今から 200 年以上も前、イギリスの経済学者マルサスは、その著書『人口論』の中で、「人口は幾何
級数的に増加するが、食糧は算術級数的にしか増加しない。」と述べている。このことはつまり、いつ
か食料が足りなくなる時代が来るということを示唆していたといえる。今日、先進国においては人口が
減少しているが、世界の人口は増加傾向にある。世界の穀物需給は生産される穀物が平等に世界の人々
に配分されたならば、現状では賄えると考えられている。しかしながら、新興国等のさらなる経済発展
は、我々が歩んできたように、食生活のカロリー単価の安い穀物からカロリー単価の高い畜産物への移
行を意味しており、今後、ますます世界の穀物需要は増える可能性がある。
さらには、前述のような人口の問題だけでなく、地球温暖化の中で、食料生産が可能な耕地面積の縮
小や生産量の減少、また、異常気象による豪雨や干ばつ等の自然災害の多発による農業被害の増大、昨
今の新型感染症のパンデミック、そして紛争や戦争等の不測の事態によって、日本だけでなく世界の
国々の食生活に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。このように、マルサスの指摘は次第
に現実味を帯びたものになっている。
こうした状況の中、世界の食料問題としては、同じ地球上に併存する飢餓と飽食、集中する穀物の生
産量と輸出のシェア、世界の食料安全保障、先進国における食品ロスの実態等が懸念される。他方、日
本の食料問題としても、食料自給率の低迷、農林水産業の縮小、気候変動による農作物への影響、有効
に活用されていない食料資源、日本型食生活崩壊の懸念等、多くの課題を抱えている。
世界の今日的課題としては、地球環境の悪化に対応した脱炭素社会の構築やクリーンなエネルギーへ
のシフト、栄養不足人口の減少、サステナブルでグリーンな社会の構築、SDGs への貢献等、地球規模
の課題解決が望まれている。本報告では、改めて日本と世界の食料問題を再整理して皆様と共有すると
ともに、将来、我が国のみならず世界のウェルビーイングでグリーンな社会の実現に向けて、我々はこ
れからの「食」にどう向き合っていけばよいのか、環境と健康を守る食生活について皆様と共に考えて
いきたい。
級数的に増加するが、食糧は算術級数的にしか増加しない。」と述べている。このことはつまり、いつ
か食料が足りなくなる時代が来るということを示唆していたといえる。今日、先進国においては人口が
減少しているが、世界の人口は増加傾向にある。世界の穀物需給は生産される穀物が平等に世界の人々
に配分されたならば、現状では賄えると考えられている。しかしながら、新興国等のさらなる経済発展
は、我々が歩んできたように、食生活のカロリー単価の安い穀物からカロリー単価の高い畜産物への移
行を意味しており、今後、ますます世界の穀物需要は増える可能性がある。
さらには、前述のような人口の問題だけでなく、地球温暖化の中で、食料生産が可能な耕地面積の縮
小や生産量の減少、また、異常気象による豪雨や干ばつ等の自然災害の多発による農業被害の増大、昨
今の新型感染症のパンデミック、そして紛争や戦争等の不測の事態によって、日本だけでなく世界の
国々の食生活に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。このように、マルサスの指摘は次第
に現実味を帯びたものになっている。
こうした状況の中、世界の食料問題としては、同じ地球上に併存する飢餓と飽食、集中する穀物の生
産量と輸出のシェア、世界の食料安全保障、先進国における食品ロスの実態等が懸念される。他方、日
本の食料問題としても、食料自給率の低迷、農林水産業の縮小、気候変動による農作物への影響、有効
に活用されていない食料資源、日本型食生活崩壊の懸念等、多くの課題を抱えている。
世界の今日的課題としては、地球環境の悪化に対応した脱炭素社会の構築やクリーンなエネルギーへ
のシフト、栄養不足人口の減少、サステナブルでグリーンな社会の構築、SDGs への貢献等、地球規模
の課題解決が望まれている。本報告では、改めて日本と世界の食料問題を再整理して皆様と共有すると
ともに、将来、我が国のみならず世界のウェルビーイングでグリーンな社会の実現に向けて、我々はこ
れからの「食」にどう向き合っていけばよいのか、環境と健康を守る食生活について皆様と共に考えて
いきたい。