基調講演

座長
公益財団法人ダノン健康栄養財団 理事長
東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 食品科学研究室 教授
清水 誠



「スポーツ科学の基礎知識」

順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科 教授/研究科長
内藤 久士

 同じトレーニングをするならばより高い効果を得たい、同じ効果を得るならば予定短時間で効率的にトレーニングを行いたい。その答えを求めて新たなトレーニング方法を開発するには、「それまでの経験から理論を明らかにし、それを応用していく」、あるいは、「理論(メカニズム)を考えて新しい方法の効果を開発していく」という2つアプローチ方法が存在する。どちらも車の両輪のように重要なアプローチ方法である。
このような視点からスポーツ科学領域における最近のトピックスを探ってみると、温熱負荷、すなわち全身あるいは体の一部を温める、あるいは温熱負荷とトレーニングを組み合わせてその効果を高めようとする方法は、古くて新しい方法として着目すべき話題の1つと言って良いであろう。
我々の研究チームも、温熱負荷が特に骨格筋の形態変化や機能向上をもたらすことを多数報告しており、その効果を生み出すメカニズムの1 つには、筋細胞内の熱ショックたんぱく質(Heat Shock Protein:HSP)の発現量の増大が大きな役割を果たしていると考えている。さらに、最近では、HSP以外にも様々なメカニズムが複雑に関わりあっていることも明らかにされつつある。例えば、骨格筋に対する温熱負荷が筋タンパク質量の増加や、引き続き生じる筋の肥大、または廃用性筋萎縮の抑制に効果をもたらすことが実証されているが、温熱負荷によって誘発される筋の肥大および筋萎縮の軽減は、HSP 発現量の増大のみならず、筋タンパク質の合成および分解に関わる複雑な細胞内シグナル伝達経路によっても調節されている可能性がある。温熱負荷が骨格筋にもたらす様々な変化の詳細なメカニズムを明らかにするためには今後さらなる研究が必要であるが、温熱負荷はトレーニングに伴う筋肥大の増強、廃用性筋萎縮の抑制、運動後の遅発性筋痛の軽減、筋損傷からの回復の促進、耐糖能の改善など、スポーツやトレーニングのみならず医療の現場などにおいてもその効果を応用できる可能性を秘めている。
本講演では、温熱負荷を題材に最近のスポーツ科学研究の成果について概説する。

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