講演2
座長
名古屋大学 名誉教授
愛知学院大学 健康科学部 特任教授
人間総合科学大学 人間科学部 特任教授
大澤 俊彦
「腸内細菌と認知症:腸脳相関の視点から」
国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 客員研究員
佐治 直樹
様々な疾患リスクとしての腸内細菌が注目されている。次世代シーケンサを用いた細菌解析法が確
立され、「これまで見えなかった腸内細菌像」が様々な角度から解読されてきた。ヒトの生体システ
ムや疾患との関連が判明し、腸脳相関という言葉の認識も広まった。
演者らの施設も腸内細菌と認知機能との関連について研究している。もの忘れ外来を受診した患者
を対象に、認知機能検査、頭部MRI 等を実施し採便検体を収集した(Gimlet 研究)。これまでの解析
の結果、①既知の危険因子とは独立して腸内細菌は認知症と関係する、②軽度認知障害の時期から腸
内細菌が変化する、③短鎖脂肪酸など腸内細菌の代謝産物も認知機能と関連する、④大脳白質病変は
腸内細菌と関連する、などの興味深い結果が判明した。また、血液バイオマーカーの解析では、⑤ニ
ューロフィラメントL(非特異的な脳神経障害の指標)と腸内細菌との関連は明らかではなかったが、
⑥リポポリサッカライド(グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分)は軽度認知障害と有意な関連を示し
た。生活習慣病の有無により腸内細菌も変化するため、日本食スコアと認知機能についてのサブ解析
を実施したところ、⑦日本食スコアが高い患者群で認知症の割合が少なく、腸内細菌の代謝産物との
関連も示唆された。生活習慣や食事内容を見直すことで腸内細菌が改善し、認知症の発症リスク軽減
に寄与するかもしれない。また、最近では歯周病についての研究も開始しており、⑧認知機能と歯周
病との有意な関連が判明した。
腸内細菌やその代謝産物、歯周病等が慢性炎症や生体システムに影響している可能性もある。腸内
細菌を制御することで疾患の発症リスク軽減や周術期のアウトカム改善なども期待できる。「細菌―
脳」には因果関係が未解明な部分もあるが、今後の研究展開が期待される。本講演では、腸内細菌と
認知機能との関連について主に概説し、自施設での研究成果を報告したい。