基調講演

座長
公益財団法人ダノン健康栄養財団 理事長
国家公務員共済組合連合会虎の門病院 前院長・顧問
東京大学 名誉教授
大内 尉義

「ヒトの健康と腸内細菌」
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
医薬基盤研究所 副所長
ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長
國澤 純

 「腸活」「腸内環境」「善玉菌」といった言葉が広く知られるようになり、食品や腸内細菌が作り出
す腸内環境が、健康維持や増進に重要であることが広く認識されるようになりました。腸内環境は免疫
機能、体重、脳機能など、さまざまな身体の状態に影響を与え、その結果、アレルギー、感染症、ガン、
糖尿病、鬱などの病気の発症とも密接に関わっていることが分かってきました。そのため、腸内環境の改
善によって健康状態を向上させたいと考える人が増えています。
 腸は食べ物を消化・吸収する重要な臓器であり、古くから「医食同源」という言葉が示すように、食
と健康は密接な関係にあります。さらに現在では、「精密栄養学(Precision Nutrition)」という新し
いコンセプトが注目されています。これは、個人ごとの食の効果の違いを生み出すメカニズムを解明し、
その人に最適な食事を提案することを目指すものです。腸内細菌は大きな個人差があることが分かってい
ますが、細菌がもたらす直接的な健康効果だけではなく、食の効果を決定する重要な要因の一つとしても
注目されるようになっています。
 私たちは現在、食品成分と腸内細菌叢から形成される腸内環境と健康との関わりを明らかにし、得ら
れた知見をもとに「腸から健康になる」ための新しい社会システムを構築するための研究を行っていま
す。本講演では、日本各地にお住まいの方々を対象に実施している「食事などの生活習慣や健康診断な
どの健康に関する調査データ」と「糞便や血液など様々な生体サンプルの分析データ」を用いたヒトを
対象とした研究と、基礎研究によるメカニズム解明を連動させた研究について紹介します。さらに、腸
内環境を良好に保つための食事や生活習慣の提案、個別の遺伝的背景や腸内細菌の違いに基づいた精密
な栄養指導を行うためのデータベースと解析プラットフォームの構築など、社会実装に向けた基盤技術
の構築や、実際に自治体や企業と連携して進めている新しい街づくりの可能性や、創薬や食品、ヘルス
ケア開発への展開についても最新の情報を提供します。

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