1つ1つの力には限りがあったとしても、その力が集まれば大きなムーブメントを生み出すことができる……、そんな思いのもと“誰一人取り残さない食環境づくり”を目指す厚生労働省の「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」。当財団も2022年より参画し、栄養課題等の解決に向けた取り組みを進めています。

健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブとは

「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」報告書(2021年6月公表)や東京栄養サミット2021における日本政府コミットメントを踏まえ、産学官等連携による推進体制として、2022年3月に立ち上がったプロジェクトです。

それを実現するために栄養課題や環境課題を重大な社会課題として捉え、産学官等の連携・協働により、誰もが自然に健康になれる食環境づくりを展開しています。

食環境づくりとは?

「食環境づくり」とは、人々がより健康的な食生活を送れるよう、人々の食品へのアクセスと情報へのアクセスの両方を相互に関連させて整備していくことを指します。ここでの「食品」は食材、料理、食事の3つのレベルがあります。

なぜこのプロジェクトが立ち上がったの?

「人生100年時代」を活力のあるものにするためには「健康寿命のさらなる延伸」が大きな課題のひとつとして挙げられます。そのうえで、栄養・食生活は最も重要な要素のひとつであり、適切な栄養・食生活を支え、推進するための食環境づくりが急務であることから、このプロジェクトが立ち上げられました。

食環境づくりは、健康の保持増進に関する視点を軸としつつ、事業者等が行う地球環境、自然環境等に配慮した取り組みにも焦点を当てながら、持続可能な開発目標の達成に資するものとしていくことも重要です。

イニシアチブの目的

目的は「活力のある持続可能な社会の実現」のために誰一人取り残さない食環境づくりの日本モデルを確立することです。また、日本はもとより、世界の人々の健康寿命の延伸、活力ある持続可能な社会の実現を目指します。

持続可能 とは?

「持続可能」とは、「誰一人取り残さない」という包摂的な視点や仕組みを有し、将来世代のニーズを損なうことなく現代世代のニーズを満たすことができるような強靭な社会の状態を指します。

目的達成のために立ち向かうべき課題

優先して取り組むべき課題と現状は以下の通りです。

栄養面の課題

①食塩の過剰摂取

→日本における危険因子別の関連死亡者数を見ると、食事因子としては食塩の過剰摂取が最も大きい。

→日本人の食塩摂取量は、長期的には減少傾向だが、諸外国よりも多く、世界保健機関(WHO)が推奨している量の約2倍摂取している。

②若年女性のやせ

→日本の20歳台、30歳台女性のやせの者の割合は中長期的には増加傾向を示しており、主な先進国の中でも、成人女性のやせの者の割合は最も高い。

→若年女性のやせは、骨量減少、低出生体重児出産のリスク等と関連があることが示されている。

③経済格差に伴う栄養格差

→2018(平成30)年の日本の「相対的貧困率」は15.4%、「子どもの貧困率 」は13.5%となっている。

→主な先進国で国際比較すると、日本は「子どもがいる現役世代のうち、一人親世帯の貧困率」が高い。

→国民健康・栄養調査結果によると、食品を選択する際に「栄養価」を重視すると回答した者の割合は、世帯所得が600万円以上の世帯員に比較して、200万未満の世帯員で有意に低かった。

環境面の課題

一連の食料システムが環境破壊や天然資源の枯渇の要因になっていることから、将来的に現在の食料システムが持続できなくなる可能性が指摘されています。持続可能で健康的な食事の実現のためには、健康面だけではなく環境面も含めた対策が重要です。

環境面の取り組みとしては

・直接的に環境保全に寄与するもの(温室効果ガス排出削減、プラスチック資源循環等)

・情報開示を通じて間接的に環境保全に影響を与えるもの(気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言に基づく気候変動情報の開示等)

があります。今回の食環境づくりにおいては関係省庁の協力を得て、事業者がこのような環境面の取り組みにも焦点を当てることが適当であるとされています。

これらの課題を解決することが健康寿命を延ばし、活力ある人生100年時代の実現のためにはとても重要となります。

取組の主体と期待される役割

この食環境づくりは、厚生労働省主体に、産学官等が連携して進めるものです。

産学官とは?

「産」は産業界(事業者)、「学」は学術関係者、「官」は国(厚生労働省)を指します。

産業界(事業者)に期待される主な取組

→栄養面・環境面に配慮した商品の積極的開発・主流化 【食品製造】
→事業者単位・全社的に行う栄養面や環境面の取組の推進 【食品製造】
→上記商品の販売促進【食品流通】
→健康的で持続可能な食生活の実践の工夫に関する情報提供【メディア等】

学術関係者に期待される主な取組

→中立的・公平な立場での食環境づくりに資する研究の推進・取組の進捗評価
→事業者への適正な支援、消費者への適正な情報提供
→食環境づくりを牽引する管理栄養士等の養成・育成

国(厚生労働省)に期待される主な取組

→全体の仕組みづくり・成果等の取りまとめ、関係者間の調整
→健康・栄養政策研究を推進するための環境整備

産学官等のより詳細な役割は図1の通りです。関係者ごとに期待される役割とアクションは異なりますが、これらが“連携”することがとても大切です。

図1:役割とアクション

好循環を生み出して目的の達成へ

産学官等がそれぞれの分野でアクションを起こし、連携・協働したものを、情報や商品等といった形で消費者へ提供することで現状の課題の解決に向かい、さらには健康増進、健康寿命の延伸へとつながると考えられます。この日本モデルが日本のみならず世界規模で広がり、活力のある持続可能な社会の実現へと続いていく……という壮大なプロジェクトですが、まずは各々の分野で何ができるか、何をするべきかを見極め、ひとつひとつ着実に進めていくことが消費者との良い循環(図2)を生み出し、目的の達成へとつながっていくのではないでしょうか。

図2:事業者と消費者の取組の循環


【参考】
自然に健康になれる持続可能な食環境づくり(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun_00005.html

自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会報告書(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000836820.pdf

健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ(厚生労働省)
https://sustainable-nutrition.mhlw.go.jp/