Vol.150(2) 第18回ダノン健康栄養フォーラムより 「プロバイオティクスの可能性」

 
メールマガジン「Nutrition News」 Vol.150
第18回ダノン健康栄養フォーラムより
プロバイオティクスの可能性
慶應義塾大学 先端生命科学研究所  
特任准教授 福田真嗣 先生
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 私たちの腸の中には、およそ100兆個もの腸内細菌がいることが知られています。体を構成する細胞の数(およそ37兆個)よりもはるかに多い数の腸内細菌が私たちの体の中にいるわけです。1958年にノーベル生理学・医学賞を受賞したジョシュア・レーダーバーグ先生は、人間について「人間はヒトの細胞(真核生物)と微生物(原核生物)で構成されている超生命体(スーパーオーガニズム)である」と2000年に述べられています。人間の健康や疾患について考える時、体だけでなく腸内細菌も含めた形で理解することが「真の理解」であり、ひいては疾患の治療や予防につながるのではないかと思います。

受け入れ側(腸内環境)の特徴

 最近では、次世代シーケンサーという最新のテクノロジーにより、年代や国による腸内細菌叢パターンの違いなどが明らかになりつつあります。私は、山形県鶴岡市に住んでいる20~30歳の健康な男女22名の腸内細菌叢のパターンを調べました。平均値で見ると、鶴岡在住の方と日本人全体の腸内細菌叢のパターンにそれほど大きな違いはありませんでした。しかし、個々のデータを見てみると、プレボテラが多い人、逆に少ない人、ビフィズス菌がほとんどいない人など非常に多様であることが分かりました。
 腸内細菌叢のパターンを決定づける要因は何なのでしょうか。最も影響を与える要因の一つが「長期的な食習慣」です。高脂肪食、高たんぱく質食を長期的に摂取しているヒトではバクテロイデス属菌の割合が多く、高炭水化物食を長期的に摂取しているヒトではプレボテラ属菌が多いことが分かっています。実際、私もベジタリアンの方の腸内細菌叢を調べてみました。すると、プレボテラ属菌が全体の約半分を占めるほど多く、逆にバクテロイデス属菌はほとんどいませんでした。腸内細菌のエサになるのは、私たちが食べたものだけです。何を食べるかによって、腸内で生存できる腸内細菌の種類が変わっていくであろうことは容易に想像できるのではないかと思います。
 なお、このプレボテラについて、興味深い論文が報告されています。大麦を摂取すると、その次に食事をとった時に血糖値が上がりにくくなることが知られています(セカンドミール効果)。しかし、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。この論文では、腸内にプレボテラ属菌が多いと、大麦摂取によるセカンドミール効果が得られることを明らかにしています。逆に言えば、いくら大麦を食べても腸内にプレボテラ属菌が少なければ効果は得られないということです。この結果は、腸内細菌叢のパターンによって効果のあるプロバイオティクス、プレバイオティクスも異なる可能性を示唆しているとも言えるでしょう。

摂取される側(プロバイオティクス)の特徴

 一口に「ビフィズス菌」と言っても、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスなど様々な種類があります。私は、同じビフィズス菌でも種の違いによって機能が異なるのではないかと考え、研究を進めました。
 実験モデルとして使ったのは、腸管出血性大腸菌O157:H7です。無菌マウスにO157を経口感染させると、1週間ほどで全てのマウスが死んでしまいます。これに対し、マウスの腸内に予めビフィドバクテリウム・ロンガムを定着させた場合、O157を経口感染させてもネズミは死にませんでした。ところが、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスを定着させたところにO157を感染させると、マウスは生き残ることができなかったのです。同じビフィズス菌でありながら、種の違いがマウスの生存に大きく関係していることが考えられました。ビフィドバクテリウム・ロンガムとビフィドバクテリウム・アドレセンティスでは何が違うのでしょうか。
 実験で分かったことは、その菌の持つ“糖のトランスポーター”の違いです。ビフィドバクテリウム・ロンガムは、ある種の糖を取り入れられるトランスポーターを持っていました。その糖をエネルギー源として利用し、最終的に酢酸を生成します。酢酸は腸管の細胞にはたらいて抗炎症作用を示します。その結果、腸管のバリア機能が高まるので、O157が感染しても毒素が体内に入ることができませんでした。一方、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスは、このトランスポーターをコードする遺伝子を持っていないため、栄養素が少ない遠位結腸部位では酢酸を十分に作り出せないことが分かりました。このような状況でO157に感染すると、腸管で炎症反応が起き、腸管のバリアがくずれて毒素が体の中に入り、マウスが死んでしまうことがわかりました。
 この実験結果から、O157感染予防をするメカニズムは、ビフィズス菌自体ではなく、ビフィズス菌が作り出す酢酸が重要であることがわかりました。そこで私たちは「マウスに酢酸を経口摂取させたらO157感染を予防できるのではないか」と考えました。しかし、経口摂取した酢酸ではO157の感染を予防することができませんでした。前述の炎症は、大腸の末端で起きています。低分子の酢酸は経口摂取をするとほとんどが小腸で吸収されてしまうため、大腸まで届かなかったのです。そこで、難消化性で大腸まで届く「酢酸化でんぷん」という特殊な化合物を作り、エサに混ぜて与えました。すると、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスを定着させたマウスでもO157の感染予防ができるようになったのです。実際に便中の酢酸濃度も有意に増加していました。
 腸内細菌は、私たちの健康に寄与する物質も作れば、健康に悪影響を及ぼす物質も作り出します。つまり、腸内細菌が作り出す物質が、私たちの病気の予防にも発症にもつながるということです。プロバイオティクス、プレバイオティクスを適切に選択して摂取し、腸内環境を改善することが重要だと考えています。

”茶色い宝石”から切り拓く、病気ゼロの社会

  腸の中にどのような菌がいてどのような物質を作っているかが私たちの健康状態に影響しますが、それらの腸内環境情報が便に含まれています。したがって、便の中には宝石と同じくらい価値ある情報が詰まっているとも考えられることから、私は便のことを“茶色い宝石(Brown Jem)”と呼んでいます。私は、最先端のテクノロジーを活用して便を分析することで皆さんの健康状態を把握し、病気を超早期段階で予防することができると考えています。私たちが目指しているのは「“茶色い宝石”から切り拓く、病気ゼロの社会」です。世界中で作られている“茶色い宝石”を日本に運び、その中から有効な情報を取り出して皆さんにお返しし、便から世界を健康にしたいと考えています。
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