Vol.148(2) 第18回ダノン健康栄養フォーラムより 「腸内細菌とメタボリックシンドローム」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.148
第18回ダノン健康栄養フォーラムより
腸内細菌とメタボリックシンドローム
神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野
准教授 山下智也 先生
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 「メタボリックシンドローム」というと、一般的に「大きいお腹」をイメージされがちです。しかし、太っていること自体が悪いのではありません。メタボリックシンドロームの怖さは、最終的に血管の障害を起こすところにあります。
 不健康な生活習慣の積み重ねは、メタボリックシンドロームを引き起こします。そして、その後にあるのが「糖尿病」「高血圧症」「脂質異常症」などの疾患です。この段階では、まだ自覚できるような症状は起こりません。しかし、これらは動脈硬化を進行させ、10年、15年と経過した頃、突然心筋梗塞など致死的な血管病を起こし、本人のみならず、家族をも困らせることになるのです。
 最近では、薬剤や手術等の治療によって多くの患者を助けられるようになりました。それでも、日本では4人に1人が動脈硬化性疾患を含む循環器疾患(心疾患、脳血管疾患)で亡くなっているのが現状です。
 そのような中、動脈硬化に腸内細菌が関わっていることが、様々な研究により明らかになってきました。

腸内細菌と動脈硬化

 腸内細菌とメタボリックシンドロームの関係についての研究のさきがけとなったのは、2006年、雑誌「ネイチャー」に掲載されたジェフリー・ゴードン博士の論文でしょう。博士はファーミキューテスとバクテロイデスの比率(F/B比)が大きくなるほど(ファーミキューテスが多く、バクテロイデスが少ないほど)肥満になりやすいということを、マウスを用いた実験で証明しました。これをきっかけに、この分野の研究がさかんに行われるようになりました。
 では、腸内細菌は動脈硬化にどのように関わっているのでしょうか。それを明らかにした論文をスタンレー・ヘイゼン博士が発表しています。博士は、様々な分子の解析を行い、血液中のトリメチルアミン-N-オキサイド(TMAO)が高いほど心血管イベントが起こりやすいことを発見しました。この物質の代謝のもととなるのが、肉、卵、エビ、カニ、チーズなどに含まれるホスファチジルコリンです。ホスファチジルコリンは、腸でコリンに代謝された後、腸内細菌によってトリメチルアミン(TMA)に代謝されます。TMAは腸管で吸収され、血中に移行し、肝臓でTMAOに変化し、動脈硬化に悪影響を及ぼします。実際、腸内細菌のいる環境下では血液中のTMAOが上昇して動脈硬化が悪化した一方で、抗生物質を投与して腸内細菌がいない環境を作ると動脈硬化に改善が見られたことが、マウスを用いた実験でも報告されています。このことから、腸内細菌は、ホスファチジルコリンの代謝産物であるTMAOを介して動脈硬化を悪化させると考えられます。
 TMAOは、マクロファージによる酸化LDLの取り込みを活性化したり、末梢のコレステロールが肝臓に戻るのを抑制したりすることが報告されています。また、血小板の凝集能も亢進するため、血栓が作られやすくなります。つまり、TMAOは動脈硬化を悪化させるだけでなく、心血管イベントが起きるとさらに血管を詰まりやすくさせるということです。
 他にも様々なメカニズムが関わっていることが予想されますが、この考え方が、腸内細菌が動脈硬化を悪化させるメカニズムとして現在スタンダードなものとなっています。

冠動脈疾患患者に多い腸内細菌叢

 ヒトの腸内細菌は3つのタイプに分けることができます。これを「エンテロタイプ」と言い、バクテロイデスが多いのが特徴の「エンテロタイプ1」、プレボテラが多い「エンテロタイプ2」、ルミノコッカスが多い「エンテロタイプ3」に分けられています。
 私たちは、冠動脈疾患に特徴的な腸内細菌叢のパターンを同定しました。冠動脈疾患患者群、コントロール群(糖尿病や脂質異常症などの有病者群)、健常者群の糞便中の菌を調べた結果、冠動脈疾患患者ではエンテロタイプ3が多いことが分かったのです。
 腸内細菌のパターンをさらに細かく分類したところ、冠動脈疾患患者にはラクトバチルス目(乳酸菌)の多い腸内細菌叢の人が多く、健常者群にはバクテロイデテス門が多い腸内細菌叢の人が多いことが分かりました。なお、「腸内に乳酸菌が多い人は冠動脈疾患にかかりやすい」という可能性を示すこの結果から、ヨーグルトなど乳酸菌を含む食品を食べることに不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、この結果は常在菌を調べたものであり、食品からの乳酸菌摂取が影響することはありません。

腸から動脈硬化を予防する時代へ

  最近では、個人向けの腸内細菌叢検査サービスなども販売されるようになりました。今後、腸内細菌叢を調べることが、疾患の診断や発症リスクの評価、ひいては治療にも利用できるのではないかと考えています。
 私たちとしても、さらに研究を進め、疾患に特異的な(動脈硬化を予防したり悪化させたりする)腸内細菌を特定したいと考えています。動脈硬化を悪化させる腸内細菌が分かれば、それを除菌するなどの介入を行うことが冠動脈疾患の予防法につながる可能性があります。また、プロバイオティクスなどの経口投与物質の利用や食事の変容によって、腸から動脈硬化性疾患を予防することができるかもしれません。それは“医療費を増大させない疾患予防法”として、みなさんにより貢献できるものとなるのではないかと考えています。
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